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みとなんこ@紺
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ZERO HOUR

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***



「少尉!遅いですよ!」
「悪ぃな、執務室経由で下だと距離があんだよ!」
「行きますよ!…って、え!?」
「邪魔だ詰めろ!」
 待機している車の開け放たれたドアに飛び込んでそれを閉めるよりも早く、来るはずのない上官に後ろから蹴りこまれた。
「ちょ、何してんですかあんた!」
「出せ!」
「ハ、ハッ!」
 有無を言わさぬ鋭い号令に反射的にアクセルを踏む。急発進にバランスを崩しながらも、ハボックは何とか体勢を立て直して背後を振り返った。
「何で標的がわざわざ出てくんですか!大人しく司令部にいてくださいよ!」
「連中は高みの見物を決め込んで、私が出てくるのを待っている。ならご期待に応えてやろうじゃないか」
 ただし、と続けた彼の口元がきれいに吊り上がる。
「共に舞台に上がってもらうがな」
「…炙り出すつもりですか」
「まあいるだろ、1人くらい血気に逸ったようなのが」
 確かに尻尾でもいいから、末端の人間を捕らえたいというのはあるけれど。
 それにしても、本当にこの上官の行動は自分の立場を返り見ないのが厄介で。もういい加減慣れたが、指揮官だという自覚があるんだろうか。
 一時は、内線でよくあったという単体での作戦の癖が抜けないからこそのスタンドプレーかと思ったこともあったが、そのうち違う事に気付いた。単純な話だ。大掛かりな仕掛けもいけるが、基本自分が動く方が手っ取り早くて好きなだけだ、この人は。
「あんたが現場来るとガードしなきゃなんないし、難易度上がるんですよ。わかってます?」
「部下のスキルアップに協力してやってるじゃないか」
 強制的な、ね。
 ここまで来れば、いくら文句を言ってもこの上官がやりだしたら誰も止められないということは身に染みて判っている。ストッパーの許可は下りているようだし、唯一止められそうな人間は中央だ。
 ハボックは深く嘆息した。
 ああ、今、猛烈にタバコが吸いたい。
「・・・ストレスでハゲてモテなくなったら責任取って貰えるんでしょうね」
「ならマニアックな趣味の女性を捜さねばならんな」
 ブ、と吹き出す音は前方から。
 つっこみたくて振り返っても、部下は何事もなかった振りで運転を続けている。
 ・・・最近、周りがかわすのが上手くなっている気がする。
 誰の影響だ。



 自問しているうちに、ほどなく現場に到着した。
 出迎えた小隊軍曹は次いで普通に降りてきた彼に一瞬ぎょっとしたようだったが、やがてそれも諦めと苦笑に変わる。
「来ちゃったんですか」
「言いだしたら聞かないんだ」
 周りの部下の面々もちらちらと様子を窺っているが、別にこれが初めてでもないため、特に動揺は見られないが。
 慣れられても困るよな、あとあと。皆が皆、現場までほいほい出てくるような指揮官ではないのだし。
「状況は?」
「爆発物は慰霊碑に仕掛けられていたようです。今朝作業開始前に調べた段階では特になにも無かったはずだと。飛散した破片での負傷者が主で、重傷の者はいません。各々搬送中です」
「本格的に作業に入る前で良かったという事ですかね」
「・・・それはいいが、慰霊祭まで日がないのにアレは誰が直すんだ」
 土台だけを残して跡形もなくなった慰霊碑を眺めながら、上官は嫌そうに小さくもらした。
「え、大佐じゃないんですか?」
「直すのは苦手なんだ」
 知ってます。
 とは、誰もが思ったが口には出さない。
 まぁそちらの事は後にして、取りあえずの問題は。
「時限式だよな」
「装置と思われる破片が出てます。付近に人は立ち入ってませんし、そうでしょう」
「広場には複数の人間がいました。誰の目にも止まらずに慰霊碑に近寄るなんて真似は普通出来ませんがね」
「…いつ仕掛けられたんだ?」
「・・・それなんですが」
 さっきちょっと引っ掛かってる事がありまして。
「今日、この近くでボヤ騒ぎがあったとか。すぐ火は消し止められたので怪我人とかは出ていないんですが」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
 それぞれ思った事は似たり寄ったりだろう。ごく自然と建物の影に移動しながら、ハボックは近くにいた部下の一人にいくつかハンドサインを送る。僅かに頷いた下士官は常と変わらぬ歩調を崩さぬまま、別の路地へ消えた。
 最終的に何もなくなった広場はちょっと慰霊祭がどうとか、と言えるような状態ではなく。
「・・・慰霊祭潰したかったんですかね」
「わからんな。ここを潰したとして、場所が変わって開かれるだけだ。中止されるとしたら…」
「…大佐?」
「・・・伝令を」
 言葉を一つ区切る。その間に自分の中で何かを纏めているようだった。辺りへ警戒を解かぬまま、そこから導き出される結論を待つ。
「司令部へ伝令を。イーストシティ駅、記念広場、大学、あとは…そうだな、教会にも急ぎ人を向かわせろ」
「教会…、ですか?」
「当日、慰霊祭を執り行う予定のある主だった場所すべてだ。同時に司令部内のチェックも強化しろと。…たしか連中が他の街で過去に行った事件に、関連施設が相次いで爆破された事があったはずだ」
 最初に一つ、それから時間差で別の場所に爆発が起こる。
 そちらに気を取られて人が集まる隙にまた次の場所。パターンは同じだった。
「市内全域封鎖しますか」
「出入りする鉄道もすべて止めろ。連中はまだ中にいる。混乱に乗じて逃げるつもりだろうがそうはいかん」
 そんな話をしている間にも路地の向こうから顔を覗かせた分隊の隊員がそれぞれ報告を送ってくる。
「残す所あと2カ所」
「引きが悪いな。お前のせいか?」
「普通そんなジョーカーばっか引きませんて。他の分隊残りに回しますか」
「残りに賭けて囲い込め。片方は周囲の路地へ散開」
「了解」
 適当に話ながら辺りに気を配る。
 朝に何も特に見つからなかったのなら、仕掛けられたのはそれ以降の時間。だが複数の作業員がいる中で、気付かれずに慰霊碑に近付く事は無理だ。
 ボヤ騒ぎを起こして注意を引き、その隙に慰霊碑に近付いて、後は野次馬に紛れてその場を離れる。こんな感じだろう。人がどう動いているか広場が見渡せる場所にあり、かつそれなりに人の出入りがあって紛れられる建物となれば限られてくる。
「上から見てたとしたら焦るでしょうね」
「さっさと現場検証して次に行くと思っているだろうからな。さっさと離れれば良いものを」
「こっちの状況連絡してるかもしれないすね。離れられたら困るんで」
 しょ、と続く前に、乾いた破裂音と同時に、小さな音がして足元の地面が抉れた。
「…ッ!うえ、」
 殆ど角度なくめり込んでいる。上だ、と思うより早く先に身体が反応した。それぞれ背にしたビルの入り口や軒先に飛び込むのと同時に、さっきと同じ辺りにまた着弾した。
 ビンゴ。
「いましたね、気の短いの」
「幸い、射撃は苦手らしいな」
 中尉だったらさっきの一瞬で全滅だ、なんて怖いセリフをのうのうとほざいていらっしゃる上司は、危うく銃撃されるところだったというのに既に涼しい顔だ。
 嫌だなぁこんなの慣れるの、と思いつつ辺りを見れば、既に部下の面々は突入をかけている。
「逃がすなよ」
「よりによってここって、運のないやつですねぇ」
作品名:ZERO HOUR 作家名:みとなんこ@紺