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華音の女王(アルエド+ハイウィン+オリキャラ)

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一瞬聞き間違いかと思ったのだけれど。
「…ちょ…っ」
「い、隠居って」
「隠居って、あの隠居ですか!?日当たりのいいテラスでのんびりくつろぎライフな!?」
「おう、その隠居。…いいなーのんびりくつろぎライフ、良い例えだぞジークムント」
思わずどもりながら問い返した私たちに、けろりとした表情でお父さまは頷く。
「いやでも、お父さまは隠居するには早すぎる年じゃないですか」
「そうそう、ボクも右宰相位を返上して隠居するよ。宰相を続投するつもりも、兄さんの跡を継ぐ気もないから」
「えええっ、お父さんも!?」
先程のジークムントのようにはいはーい、と挙手したお父さんの言葉に、再び驚かされる。
念のため言っておくが、母とお父さまは同い年、一つ年下の父とお父さんも同い年。
母が二十歳で私を生んで十六年。つまり二人ともがまだ三十代半ば。
どう考えたって、隠居を考える年齢じゃない。
「ごめんねエーデルハイト、ボクの王は兄さん一人だから」
笑って言い切ったお父さんに、私はふるりと首を振った。
お父さんのお父さまへの忠誠心はとても厚くて、国じゅうどころか世界中の誰にも負けないだろうと思う。
「構いませんわ。お父さんはお父さまの、一番の臣ですもの」
政治的手腕でいえばお父さんの方が上なのだ、とお父さまは常々言っているし、実際にお父さまの跡を継ぐならお父さん以上に相応しい人はいない、と世間も考えている。
そもそも継承権だって、お父さまの弟であるお父さんが第1位で、次がお二人の従兄弟である父が、その次が父の子で3姉弟の長子の私にある。
だからお父さまが譲位するなら当然、その次はお父さんに王位が渡る事になるのだけれど。
「それに、ボクとアルフォンスさんの継承権はあって無いようなものだからね。ボクらが玉座に向かない人間だってことは、みんなも知ってるでしょう?」
「ええ、それも存じてますわ」
「お父さん、お父さまが大好きですもんねぇ…」
「父上もお父さまとお父さんが大好きだから、譲位されても蹴ってしまうのは目に見えてますし」
父もお父さんも、例えば国とお父さまを秤に掛けるほどの有事があった場合、確実にお父さまを選ぶ人。
家族として大切にされている自覚がある私達だけれど、お父さまやお父さんに対する父の思いは別格なのだ。
そんな人が王位に就けば、確実に国を傾けることになる。
だから二人は形ばかりの継承権を持っているけれど、実際に跡を継ぐつもりは微塵もないと言っている。
「じゃあやっぱり、姉さんが跡を継ぐのが一番ですね」
「だろ?そのためにいろいろ教えてきたんだ。きっとエーデルハイトなら、オレよりも良い王になるぜ」
「アルフォンスさんも、エディなら良いと思うよ、って言ってたし」
「まあ、父上までそのようなことを?」
「おまけにウィンリィなんて、『あたしの娘なんだから、アンタを越えた最強の女王になるに決まってるじゃない』って太鼓判押してたぜ」
「母上…」
ああでも、私にはなんだか、そう言った時の母上の表情が目に見えてくるようです。
「───わかりましたわ。では譲位の話、謹んでお受けいたします」
「ありがとな、エーデルハイト。明日の朝議で発表させて貰うよ」
「はい」









というわけで、私は再来月から王になることが決定したのだが。
「───まあ、さすがにそのまま丸投げってわけにもいかねぇから、とりあえず心配が少ないように、足場は簡単に作っておいたんだ」
「足場、ですか?」
「ああ。…とりあえず、ラッセルとフレッチャーには薬師を続投して貰うように言っておいた。フレッチャーの子供はまだ小さいから、薬師を継がせるには早いし」
基本的にこの国では、王が代わるのと同時に典医と薬師も交代する。
だから今回のように、薬師が2代の王に仕えることは少々珍しい事例だけれど、前例はあるのだから反対もされないだろう。
「二人とも快諾してくれたよ。…そういえばエーデルハイト、最近薬学の勉強を始めたんだって?飲み込みが早いってフレッチャーが褒めてたよ」
「あら、本当ですか?嬉しいです」
二人はお父さまの代の薬師兼庭師で護衛でもあり、両親やお父さま達の幼馴染み。
ラッセルさんは独身ライフを満喫しており、フレッチャーさんは8年前に結婚して現在6歳の息子が居る。
「あとな、ラングのところの息子───セリムが典医を務めてくれるって」
「良かった。セリム様だったら安心だよ、姉上」
「そうね。ジークのお師匠様の一人だし」
私の両親達よりいくつか年上の、ラング侯爵のご子息。
外交官である父君とは違い医学の道を志していらっしゃる方で、名医と名高く、ジークムントも時折教授戴いているそうだ。
「で、護衛隊長はヒューズにしばらく続投して貰う。師匠の息子のラースが一人前になるには、もう少しかかりそうだし」
師匠、というのは父とお父さんの剣の師匠、イズミさんのこと。ヒューズさんの前の護衛隊長で、『白の女傑』と呼ばれていたそうだ。
ラースさんはその一人息子で、双剣の使い手としても名高い護衛隊の小隊長。
今はユリアーヌスがラースさんと一緒に、イズミさんのところで双剣の修行をしている。
暗殺剣だと忌み嫌われている流派だが、本来双剣は剣舞から派生した、王家発祥の流派なのだ。
それが明らかになったのはごく最近。でも習得が難しいせいか、やっぱり扱える人は少ないそうだ。
「それから、エリシアは続けてセリムの助手に入ってくれるそうだ。…女の子が近くにいた方が、オマエも心強いだろう?」
「そうですわね。男の方には相談できないこともありますし」
エリシアさんはヒューズさんのお嬢さん。仕事柄ケガをすることも間々ある父君のために看護士となり、現在は母の助手をしている。
「女官長は続けてグレイシアに頼んでおいた。…オマエ達みんな、懐いてたもんな」
「嬉しいですわ。グレイシアさんにはずっと、お世話になってますから」
女官達をまとめ上げ、お父さま達の信頼も厚いグレイシアさん。ヒューズさんの奥方で、エリシアさんのお母様。
幼い頃に王宮へ遊びに来ると、忙しいお父さま達の代わりに本を読んだりして相手をしてくれた方。
「ホントはロゼさんもって思ったんだけど、彼女にはボクらの隠居先に付いてきて貰いたくて」
「そうですね。ロゼさんが一番、お父さん達も気心の知れた方ですし」
「そうなんだ。気が利くし何かと頼み事とかもしやすくて、彼女が居てくれるととても助かるから」
ユリアーヌスの言葉に、お父さんが頷く。
お父さま達とも歳の近いロゼさんは、所謂『お気に入りの女官』。
確かフレッチャーさんの息子より二つ年上の子供が居て、時々中庭で一緒に遊んでいるのを見かけることがある。
「あと、ついでってのもなんだけど、大臣候補も何人か選んでみた」
「まあ、そこまでしていただいたのですね。ありがとうございます」
「最終決定はエーデルハイトがするんだぜ。オレはあくまで候補者を選んだだけで、当人達には話を一切していない」
「ええ、解りました」
だけどお父さまが選んでくださった方なら、きっと間違いはないだろう。