華音の女王(アルエド+ハイウィン+オリキャラ)
「まずは、オステアの息子のエディンバラ。穏健派だけど言うときは言うヤツだから」
「オステア様にそっくりですもんね、エディンバラ様は」
「それから、グロリオサの娘のヴェロニカ。…つっても、アイツは熱血武闘派だから、護衛隊の方が合ってるかもしんねぇけど」
「でも、ヴェロニカ様は語学堪能でいらっしゃるとユーリから聞いてますわ。執務がてら、護衛もして戴けるなら助かります」
「だけど、姉さんだって鋼糸の使い手じゃないですか。僕たちよりずっと腕もいいんですから、護衛が必要かどうかは…」
「私が使えるのは鋼糸だけよ。ユーリみたいに双剣を使えるわけではないし、ジークのように剣を扱えるわけでもない。だから万が一の時には、やはり護衛が居てくれた方が良いわ」
平和に暮らしていると言っても、危険は何処に転がっているか解らないでしょう?だから自力で自分を守る術は身に着けておくべきだよ。
そう両親に言われて、私が護身術として学んだ鋼糸の師匠に選んだのはラッセルさん。
最初はヒューズさんにお願いしたのだけれど、彼の方が腕がいいと断られてしまったのだ。
ちなみにジークムントはお父さまから剣の手ほどきを受けていて、いつだったか『お父さまは超スパルタなんだよー!』と嘆いていたが、筋は悪くないらしい。
閑話休題。
「それから…右宰相候補として、アルフォンス経由でひとりだけ先に打診しておいた」
「どなたにですか?」
「───クロノスだ」
挙げられた名前に、私は思わず目を見開く。
「…クロノス、って…ルシーア様のご子息のクロノスさん、ですよね?」
思わず聞き返したが、無論知らない名前ではない。
私よりも4つ年上で、黒髪に薄茶色の瞳を持つ、寡黙で表情の変化が少ない青年。
いまはお父さんと一緒に右の府に務めており、副官の助手をしている。
「ああ。…アイツは父親譲りで生真面目で頑固だけど…
国を思う気持ちは、オレ達と変わらない」
それは私も良く知っている。
彼の手腕は本当に見事で、副官の助手なんて役職で居るのは勿体ないと思うほどに。
最初は表情の乏しさにとまどいはしたけれど、長く顔を合わせて話してみれば性格も解ってくる。彼は単に、感情を表に出すのが苦手なだけの優しい人だ。
「だけど、クロノスさんは…その、亡くなったサリアン公爵の血を」
亡くなった公爵は、お父さま達の父君の従兄弟に当たる方で、この王家にも少なからず縁のあった方。
「だからだよ、というか、だけど、っていうか。…サリアンは苦手になっちまったけど、嫌いになったワケじゃないんだ。それに、クロノスもルシーア姫も悪いヤツじゃないし」
お父さまが即位してすぐの頃に、サリアン公爵は王位を簒奪しようとしてお父さまを誘拐したが、計画は脆くも崩れ去り彼は捕縛された。
隣国クレタの諜報員も荷担していたこの事件は、本来なら国家レベルの犯罪に当たるのだけれど、公爵に下された罰は役職と領地の返上と邸での幽閉だけ。
理由は、諜報員が独断で公爵に荷担していたために情報がクレタ側には一切漏れていなかったこと、事件自体が秘密裏に処理されたこと。
そして、公爵には懲役期間を過ごすだけの時間がなかったから。
…彼は、亡くなっているお父さまの父君と同じ病にかかっており、捕縛時には既に余命数ヶ月と言われていたのだ。
だから彼は病による静養という理由で役職と領地を返上し、養女であるルシーア様と共に、邸で最期の時間を過ごしたのだという。
黒髪に碧の瞳を持つ美しいルシーア様は、公爵が亡くなって以降は女公爵として位を継ぎながら(お父さまは公爵から爵位までは剥奪しなかった。養父を失い天涯孤独となるルシーア様が安定した生活が出来るよう配慮したのだそうだ)邸で慎ましやかに暮らしていて、時折登城したときでもずっと黒の喪服を纏っている。
実はそのルシーア様と公爵の間に生まれたのが、クロノスさんだ。
いくら血のつながりがないとはいえ、戸籍上は父と娘との間に生まれた子ということで、彼の父親は明らかにされていない。
所謂公然の秘密、と呼ばれるものだ。
「身分や年齢に囚われず、優秀な人材は登用する。これが兄さんの方針だからね」
「まだ若いが、アイツにはそれだけの能力がある。だからアルフォンスに打診して貰ったんだ」
作品名:華音の女王(アルエド+ハイウィン+オリキャラ) 作家名:新澤やひろ