華音の女王(アルエド+ハイウィン+オリキャラ)
「───オマエ、前に言ってたよな?生涯叶わない恋をしてるって」
「?ええ、確かに言いましたけど。だから結婚はしないって」
頷いたジェンドさんに、私の胸はぎゅう、と痛みを訴える。
…そうか、やっぱりこの人にも、思う人はいるのね。
「一応子爵家の人間とはいっても、私は四人兄弟の末子ですしね。独り身で通してもさほど家の方には被害もないですから、丁度良いやと思って気楽にしてますけど」
「そんなオマエに、ぴったりの相手が居るんだ。損はないぜ」
「ええっ、勘弁して下さいよー。これでも義理立てしてるんですから、嫁に来る子が可哀想じゃないですか!」
自分の胸の前でひらひら手を振るジェンドさんに、お父さまは首を横に振る。
「いーや、ちっとも可哀想じゃないね。…本人にはまだ確認取ってないが、聞けば二つ返事でOKしてくれるはずだ」
「…それって、どういう」
にこにこにこ、と笑顔を浮かべるお父さま達。その視線は…。
「───エーデルハイト」
「は、はいっ!」
急に呼ばれて、私はひっくり返ったような声で返事をする。
「そこにな、一途で哀れな四十路男が居るんだ。自分の娘と言っても良いくらいに年の離れた子に、長く恋をしていてな」
「……え?」
年の離れた女の子に、恋を?
「ちょっ…陛下まさか」
「まあぶっちゃけた話、義理立てしている所為で嫁を貰いそびれた男なんだが。仕事も出来るし、聞けば家事もこなせるそうだ。人柄についてはオマエも良く知ってるだろうし、なによりオレとアルのお墨付きと、アルフォンスとウィンリィの太鼓判が付いてる」
「待って下さいよ陛下、なんでそれを知って…」
「あのなジェンド、アルの傍にいるオマエを、オレが何年見てきたと思ってるんだ?」
あわあわしているジェンドさんを余所に、会話はするすると進んでいく。
「エディはちょっと、家事が得意じゃないからねぇ」
そうなのだ、いったい誰に似てしまったのか、私は家事というものが壊滅的に苦手だ。
母上は勿論、父上や弟たちだって人並みに家事はこなせるというのに。
───母上曰く、私のそれはお父さまに似たのだということらしいが。
「頭もいいから参謀代わりにもなるし、愛情たっぷりのご飯も作って貰えそうだし。堅苦しい会話もしなくて済むわよ」
「父上も母上も、どうして、それを…?」
「ボクらを誰だと思ってるんだい、エーデルハイト」
「オレ達四人は、オマエら姉弟の親なんだ。言葉にしなくたって、気持ちはずっと気づいてたよ」
「お父さん、お父さま…」
私達姉弟とお父さま、それとお父さんは、直接の血縁関係ではない。
先でも述べたとおり、お二人は父の従兄弟であり、血を分けた実の父はアルフォンス=ハイデリヒ侯爵ただ一人。
それでもお二人が親だと言って下さるのは、国のために子を残す術を選ばなかったお父さま達が、私達をわが子のように愛して下さっているから。
お父さまが私の名に自分の『隠し名』を下さったのも、弟たちの名を両親と一緒に考えて下さったのも、大切にされている証だと言える。
「───というわけなんだ、エディ。きみ、ジェンドさんを婿に取る気はないかな?」
そう言って本日3つ目の爆弾は、父上から静かに優しく落とされた。
作品名:華音の女王(アルエド+ハイウィン+オリキャラ) 作家名:新澤やひろ