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華音の女王(アルエド+ハイウィン+オリキャラ)

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ずっとずっと、叶わない恋だと思っていた。
両親よりも年上、私とは二周りも違う年齢。
家庭教師をしてくれていた人だから、彼にとって私は仕えるべき主人の一人であり、生徒の一人でしかないと。
「───いいん、ですか?私なんかに、ハイデリヒ侯爵家の…ひいてはエルリック王家の掌中の珠、至高の歌姫を…」
ジェンドさんの、どこか強張ったような問いかけに、父上が頷く。
「きみになら、この子を託せるよ」
「いいじゃない幼妻、可愛いと思うわよ?あたしは姉さん女房だから、アルフォンスにそう言う醍醐味、味わわせてあげられなかったけど」
「いや、僕きみ以外は断固拒否」
すぱんと言ってのける父上はなんだか格好いい。…いや、前から格好いいのだけど。
思えば私の周りは美形揃いだ。
美人系なお父さまを筆頭に、父上とお父さんは男の色気のある『イイオトコ』で、母上も極上の美人。
弟たちにはまだいくらか幼さが残るけど、年を重ねていけば格好良くなるだろう。
ラングさんもロマンスグレーな方で若い頃は相手に事欠かないほどだったというし、クロノスさんは母君に似て、良くできた人形のように綺麗な顔をしていらっしゃる。
ジェンドさんも、この年齢で何故浮いた噂の一つも立たないのかと言うほど整った顔立ちをされている。
「まあ家事が苦手ってことは欠点だけど、賢いし気だては良いし歌も上手いし、なんてったってアルとアルフォンスに似て美人だからな。それで補って余りあるだろ」
「あんたの美人の基準はアルフォンスとアルだもんね。……思い出すわー、エディ産んだ時に『グッジョブ、ウィンリィ!』って言ったあんたの、満面の笑顔」
「アルフォンス似の娘を産むんだ!って意気込んでたのはオマエもだろ」
「まあそうだけどね。…ここまで似てくれると思わなかったわ。よくやったわあたし、まさにストライクゾーンど真ん中」
「自画自賛かよ」
「……すみません、話がずれてきているのではないかと思うのですが」
「あら、そうだったわね」
おそるおそるかけられたクロノスさんの声に、両親達がはたと我に返る。
「どうかしら、エディ…エディ?」
母上の声に、応えることが出来ない。
口許を両手で覆って、嗚咽を堪えるのが精一杯で。
───ああどうしよう、涙が出てきそう。





「…姫様」
ジェンドさんが、私の前に膝を突く。
「そういうことなんで。…ご両親よりも年上の、こんなおじさんでも良かったら、婿に貰ってやって戴けませんか?」
少し困ったような、照れたような表情で、ジェンドさんが私を見上げる。
そうだ、返事を。返事をしなくては。





「わ、たくしは……」
声がみっともないほどに、震えている。
「私は、あなたのために…食事を作ることも、繕い物をしてあげることも、出来ません。お茶を淹れるのも…上手ではないし、お掃除も、お洗濯も苦手です」
「…いいんですよ、姫様」
笑って、ジェンドさんが首を横に振る。
「女の子らしい、ことなんて…何にも出来ない、私ですけれど……だけど、あなたのために…子守歌を歌ってさしあげることだけは、できます」
私の芸術面での唯一の特技、それが歌うことだ。
これだけは家族の誰にも負けない、私が一番得意とすること。
「子守歌の、続きを、歌いたいんです。……あなたに歌っても、良いですか…?」
この国の女性なら誰でも知っている、『子守歌の続き』のジンクス。
女親から娘へと、ひっそりと口伝のみで伝わってきた、子守歌の続き。
自らの、人生の伴侶と定めた男性からの求婚への、返答として歌われるそれ。








「…その続きを、私にだけ聞かせて戴けるのなら」
「……っ!」
必死に堪えていた涙が、ぽろぽろとこぼれ落ちる。





立ち上がったジェンドさんが、言葉も出ない私におそるおそる腕を回す。
「───あなたから、続きを聞かせて戴けるなんてこと、私には夢のまた夢でした」
「ジェ、ンド、さん…っ」
「普通に考えれば、親子ほど年の違う女の子に本気で恋をするなんて、犯罪以外の何者でもないですし、何より身分違いにも程がありますからね。だから気持ちをお伝えするなんてことは、これっぽっちも考えてなかったんです」
お父さん達と殆ど背の変わらない長身のジェンドさんの腕の中に、私はすっぽり収まってしまう。
「だけど、幼い頃から賢くて優しくて、可愛らしい姫様が、私はずっと好きだったんです。…生涯最後の恋だと、思えるほどに」
だから一生結婚はしないって、決めてたんです。
告げられた言葉と共に、躊躇いがちだったジェンドさんの腕に力がこもる。
「ねえ姫様、家事なんてからっきしでいいんですよ。私が人並みにこなせますから、その分はちっとも問題ありません」
押しつけられるように頬が触れているジェンドさんの胸からは、ことことと早鐘を打つ鼓動が響いてくる。
「再来月でクビにはなりますが、一応アルフォンス様の副官も務めてますから。政治的な面でのアドバイスも、少しくらいならできるでしょう」
さら、と大きな手で髪を撫でられる。───腰まである私の髪の質は父に似て柔らかだが、母の持つそれのようにまっすぐだ。
「姫様がつつがなく毎日を過ごせるように、私が傍で出来る精一杯のことをします。だから姫様は、私のために笑っていて下されば、それで良いんですよ」
そうっと、少しだけ腕の力が緩められて、私はジェンドさんと視線を合わせる。
「…ね?姫様。だから私を、婿に貰ってやって下さいよ」
「───はい、喜んで…!」