二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

スズメの足音(前)

INDEX|10ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

 クリスマスはイブも当日も高野さんの店を手伝うという細山に合わせて翌日の時間を空けた。
 それからバイト先で計画された遅い忘年会に参加して、なんだかんだで宮城に戻ったのは三十日だった。
 大晦日の朝に大地にメールを送った。三十一日は大地の誕生日だ。送信から一分ほどで携帯が鳴った。メールの遅い大地にしては早いと思いながら確認すると、大地ではなく細山からだった。細山も元日だけは実家に顔を出すと言っていたけど、実家を追い出された手前、年末年始も基本的には帰らないつもりらしい。
 細山の部屋探しは難航していた。ただ本腰を入れていないだけかもしれないが、一緒に不動産屋を回っているわけでもないので実情はよくわからない。
 高校卒業して実家を出るまでは大晦日の大掃除に駆り出されていたけれど、実家を離れてからは戦力にカウントされていないので、細かい買い出しを頼まれたついでに烏野商店街のバレー部OBの人たちに挨拶をしてきた。商店街は烏野高校バレー部の春高バレー全国進出を祝う垂れ幕やポスターがそこかしこに飾られていた。地元だから顔見知りも多くて、知り合いに会うたび「バレー部スゲーな」なんて声をかけられる。バレー部OBの滝ノ上さんの話では、家業の店を継いでいる人たちはみんな親や奥さんに頼み込んで大会当日の仕事を休むんだそうだ。
「俺は決勝までいったら会場まで行くけど、その時は店のテレビで試合を流しといてくれるよう親父に頼んである。嶋田マートは優勝したらセールやるってさ」
 滝ノ上さんは電器店で嶋田さんはスーパーの跡取りだ。
 買い物途中で一年下の後輩、田中に会った。高校を卒業しても坊主頭のままで私服もジャージなもんだから、あんまりにも時間の流れが感じられなかった。
「俺らみんなで縁下と木下んち行くんスよ!」
 田中の学年のバレー部員は五人。半分が宮城や近県に残って、縁下と木下はそれぞれ進学のため東京と埼玉にいる。
「じゃあまた会場で!」

 元日は大地、旭、俺たちの代のマネージャーだった清水。それから清水の参加を聞きつけてすっ飛んできた田中と西谷で初詣がてら後輩たちの全国優勝を祈願してきた。「また会場で」と言っていた田中とあまりに早い再会をしてしまった。
 元日が誕生日の旭は新年の挨拶より先に誕生日の「おめでとう」を言われ、昨日が誕生日の大地とまとめて屋台の食べ物をプレゼントされていた。数日後に誕生日を迎える清水には「とっておきがあるので今日前倒しでお祝いすることはしません」と言う田中と西谷に、清水は「予定、埋まってるから」と非情な一言を放った。
「先に潔子さんの予定を押さえておくべきだったのかっ…………!」
「俺としたことが、準備に盛り上がりすぎて一番大事なことを忘れるとはっ……………!」
「…………早くに言われてたとしても、予定、空けないから」
「冬風よりクールっす潔子さん!!」
「オ、オイ……こんな人の多い所で騒いだら大地が怒るからヤメロよ」
 参拝客の注目を浴びるのを嫌って清水が早足で先頭を歩く。それに続いて田中と西谷。二人の後ろをオロオロと追いかける旭。そんな高校の頃のような騒ぎぶりの三歩後ろを歩く俺たち。
「やっぱり西谷たちがいると俺たちだけでお参りするより賑やかだな」
「賑やかどころかうるさい」
 西谷たちを「うるさい」と斬り捨てる大地だってバレー部の頃のようだ。こういうのは安心する。
 三ヶ日を実家で過ごし、五日からの大会より早くに東京へ戻った。
作品名:スズメの足音(前) 作家名:3丁目