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【カイリン】十四歳の亡霊

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リンが濡れた髪を拭きながら出てきても、カイトは起きてこない。ローテーブルに置いた眼鏡を頭に乗せても、ぴくりともしなかった。

「客をこき使ってんじゃねえよ」

ぶつぶつ言いながら、リンは冷蔵庫を開ける。見事に空っぽな中身に、飲み物くらい用意しとけと文句を言いながら、買い物袋の中身を詰めた。出来合いの総菜や弁当ばかりの内容に、男の一人暮らしならこんなものなのかと呆れつつ、賞味期限の短いものをみつくろって、容器ごと流しに並べる。
次に食器棚を覗くが、こちらも見事に空っぽで、リンは溜息をついて「ふざけんな」とこぼした。

「役に立つのはレンジくれーだな」

適当に総菜と弁当を温めていたら、背後でカイトの起きる気配がする。

「お前、彼女とかいねーの?」

リンが振り向かずに聞くと、「お前ってやめてよー」と抗議された。

「お兄ちゃんって呼んでもいいのよ?」
「キモッ!」

リンは振り向き、起きたなら動けとどやしたら、カイトはまた床に寝転がる。

「起きてないでーす」
「ふざけんな! 起きろ!」

温めた総菜と弁当をローテーブルに持っていくと、カイトがごそごそと床を探り、

「俺の眼鏡がない」
「コントか。頭の上」

リンが自分の頭を示すと、今度はリンの方に手を伸ばしてきた。

「ちげーよ。てめえの頭だよ」
「ああ、こっちか」

やっと眼鏡を掛け直すカイトに、リンはふと沸き起こった疑問を口にする。

「何で眼鏡なの?」
「え?」

カイトはきょとんとした顔でリンを見て、

「目が悪いから」

と答えた。

「分かってるわ」
「分かってんならいいじゃーん。他に理由もないし」

確かにと納得しつつ、何故カイトが眼鏡を掛けていることが気になるのだろうと、内心首を捻る。

「うん、まあ、事故の後遺症でね。こっちは回復しなかった」
「え?」

今度は、リンがきょとんとした顔でカイトを見た。カイトは、何食わぬ顔で割り箸を手に取ると、リンの弁当から唐揚げを摘んで口に入れる。

「ちょっ! それあたしの!!」
「リンのせいじゃないから、気にしないで」
「そっちじゃねえよ! 唐揚げ返せ!!」

夕飯の後、毛布にくるまって床に雑魚寝した。堅い床でも薄い毛布でも、一人で寝具売場に潜り込むより何倍も心地いい。その夜は悪夢を見ることもなく、リンは夜明けまでぐっすりと眠り続けた。