【カイリン】十四歳の亡霊
「じゃあ、行ってくる」
「あいよー」
「出来るだけ早く帰ってくるからねー」
「うるせえ、早く行け」
「俺がいなくて寂しいだろうけど、少しだけ我慢してて」
「二度と帰ってくんな」
しっしっと追い払う仕草をして、カイトを仕事に送り出す。玄関が閉まった後、リンは追いかけたい衝動をぐっと堪えた。
ワガママを言って、カイトに見放されてしまったら。ここを追い出されたら、自分には帰る場所などない。
テディベアを抱え、壁にもたれて座った。消したままのテレビ画面に映る自分の顔に、ふっと苦笑を漏らす。
「・・・・・・ひでー顔」
くよくよ考えるのは性に合わないと、リンは立ち上がって体を伸ばした。そのついでに、洗濯物を取り込もうとベランダに出る。乾いた服やタオルを、ばさばさと室内に放り込んだ。
「あ、カイトに醤油買ってこいって言うの忘れた。帰ってきたらでいいか」
帰ってきたら、一緒に買い物に行けばいい。自分一人で動かなければ、カイトの側にいれば、何も問題はない。
無理矢理不安を押しやって、リンは洗濯物を畳んだ。いつもなら、自分の分は自分でと置いておくのだが。
「今日は特別サービスだ」
タンスを開け、カイトの服を一番下に押し込む。その時、手の先に固い物が当たった。
「何だ?」
手探りで引っ張りだした物を見て、リンは凍り付く。それは、組織が能力者に取り付ける制御装置。リンが苦痛と引き替えに捨ててきたはずの、忌まわしい代物だった。
何故カイトが持っているのか、カイトは組織と関係があるのか、数々沸き起こる疑問よりも、
逃げなきゃ・・・・・・!
制御装置を投げ出し、テディベアを掴んで、リンは部屋を飛び出す。
とにかく遠くへ行かなければ。組織の手が届かないところへ。
がむしゃらに、力の限り、リンは走り続けた。
作品名:【カイリン】十四歳の亡霊 作家名:シャオ