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【カイリン】十四歳の亡霊

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何処へ逃げればいいのか、何処まで走ればいいのか、頭の中がぐちゃぐちゃのまま、とにかく足を動かし続ける。

「あっ!」

足がもつれて、地面に倒れ伏した。顔を上げれば、そこは以前カイトに連れてこられた公園。

「・・・・・・・・・・・・」

犬を散歩させている人、買い物袋を下げて横切る人、スーツ姿でベンチに腰掛けている男性や、数人で固まっておしゃべりしている女性達。

誰一人、リンを見ない。

リンはのろのろと立ち上がると、服の汚れを払って、テディベアを抱き締めた。

「・・・・・・んっ」

両の目から、ぼろぼろと涙がこぼれる。
全部嘘だったのだろうか。あの優しさも笑顔も、全部自分を騙す為の芝居だったのだろうか。

「・・・・・・ひっく・・・・・・えっ・・・・・・」

全部取り上げられてしまった。何もかも。
家族も、友人も、記憶も、帰る場所も。
カイトのことも。

「・・・・・・うっく・・・・・・ひっ・・・・・・」

嘘だったのだ。何もかも全部。

「うっ・・・・・・あああああああああああああああ!!」

声を上げて、リンは泣き崩れた。拳を振りあげ地面を叩き、涙を流して叫ぶ。

「やだっ! イヤだ! 返して!! 返してよ!! お父さん!! お母さん!!」

それは一種異様な光景だった。泣きわめくリンを、周囲は一顧だにしない。どれだけ叫ぼうと、リンの声は届かなかった。
叫び声はやがてすすり泣きに変わり、うずくまった体から、掠れた声が漏れる。

「う・・・・・・くっ、げほっ・・・・・・」

二・三度咳込んで、リンはようやく顔を上げた。泣こうが喚こうが、手を差し伸べてくれる相手はいない。


・・・・・・逃げなきゃ。


手の平で顔をこすり、体を起こした。とりあえず、この町を離れなければならないと、テディベアを抱き直す。

「あっ」

その時、片方の腕が取れそうになっているのに気がついた。カイトが繕ってくれた糸が、かろうじて胴体とつながっている。

『その熊、ぼろぼろだねー』

初めて掛けられた言葉。カイトは、この町に取り付いた亡霊を、見つけてくれた。

「・・・・・・帰ろっか」

リンは小さく呟き、ゆっくりと歩き出す。その結果がどうであろうと、もう逃げないと心に決めて。