【カイリン】十四歳の亡霊
それから数日は、リンも周囲を警戒していたが、あの男の影さえ見えない日々に、徐々に気がゆるんでいく。
あっちもあたしを探してるようじゃないし。考えるだけ時間の無駄だって。
ぶらりとコンビニに入ると、棚からパンを一つ取り、そのまま出入り口へと向かった。自動ドアの開く寸前に、リンは後ろから腕を取られる。
「こらこら。まだお金払ってないでしょ」
聞き覚えのある声にリンが固まっていると、手の中のパンを取り上げられた。
「すいません、これもお願いします」
「はーい」
店員は何でもないことのように、パンのバーコードを読み取る。合計金額が読み上げられ、眼鏡の男は片手で器用に財布を取り出しながら、
「ちょっ、大人しくしてなさい。お金出せないから」
逃げようとするリンを脇に引き寄せた。リンはその時、店員や後ろに並んでいる客が、微笑ましげにくすくす笑いながら、自分を見ているのに気づく。
・・・・・・えっ!?
自分を捕まえている男だけでなく、周囲の人間にまで、自分の存在を認識されている。制御装置は外したはずなのにと、リンは自分の首元を撫でた。
男は袋詰めされた商品を受け取ると、リンを促して外に出る。とっさに逃げようとするリンだが、男は素早くその手を掴むと、
「あっちの公園にベンチあったよね」
強引に歩きだした。
「離せよ!」
リンは手足を振り回して必死に抵抗するが、相手にひらひらとかわされる。
「やめてよ、俺が誘拐犯みたいじゃん」
「離せー!!」
「はいはい。いい子にしてないとあげないよー?」
抵抗むなしく、リンは男に引きずられていった。
作品名:【カイリン】十四歳の亡霊 作家名:シャオ