【カイリン】十四歳の亡霊
「ゴミはこっちねー」
カイトが差し出した別の袋に、リンは空になった弁当の容器を押し込む。
「・・・・・・もういいだろ。じゃあね」
「あ、俺、ゲーセン行きたい。行こうか」
リンは手を繋がれ、無理矢理立ち上がらされた。
「何だよ! 一人で行けよ!」
「えー。リンも一緒に行こうよー。ぬいぐるみ取ってあげる」
「いらねえよ!」
リンはとっさにテディベアを抱きしめる。殴られようが蹴られようが、これだけは手放さないできたのだ。
「それ、もうボロボロだよ?」
「うるさい! あたしの勝手だろうが!」
「ライナスの毛布みたいだねー」
カイトにずるずると引きずられ、仕方なく歩き出した。
「・・・・・・何の毛布だって?」
「ライナス。スヌーピーのマンガに出てくる男の子だよ。知らない?」
「知らない。・・・・・・以前のことは、殆ど覚えてない」
「そう。まあ、無理に思い出さなくていいよ」
「・・・・・・うっせえ、馬鹿」
リンはテディベアに顔を埋めて呟く。
何もかも取り上げられてしまった。思い出さえも。
今の自分は、空っぽの亡霊なのだ。
「大丈夫、俺が取り戻してあげるから」
カイトの言葉に、リンは「はあ?」と言って顔を上げた。
「あんたに何が分かるんだよ」
「リンが、その熊を大事にしてることは分かった」
「やらねーかんな」
「分かってるよー」
カイトに連れられてゲームセンター、のはずが、カイトはふらふらと横道に逸れてみたり、野良猫の後をつけたり、途中のコンビニに入ってお菓子を買ったりと、と落ち着かない。リンはその度にたしなめたり連れ戻したりと、気がつけばカイトを引っ張る立場になっていた。
周囲の視線やくすくす笑う声に、リンは自分を認識されている驚きよりも気恥ずかしさが勝り、顔を赤くしてカイトの手を引っ張る。一方のカイトは、呑気にチョコバーを頬張りながら、相変わらずふらふらと脇道に逸れようとしていた。
「そっちじゃないだろうが! 真っ直ぐ歩け!」
「リンも食べる?」
「いらねーよ! 何本目だよそれ!」
やっと目的のゲームセンターにたどり着いても、カイトは相変わらずあっちに行ったりこっちに来たりと、リンを振り回す。
「もー! 大人しくしてろよ!」
「あ、これ欲しい。巨大キャラメル」
「取ってやるから、そこを動くな!」
「こっちも取ってー」
「動くなっつってんだろ!」
作品名:【カイリン】十四歳の亡霊 作家名:シャオ