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【カイリン】十四歳の亡霊

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町が夕焼けに染まる頃、リンはカイトを連れてゲームセンターを出た。

「リンは、いつも夜、どうしてるの?」
「えー、適当に。屋根と布団があればどうにでもなるし」
「うちに来る?」

カイトの申し出に、リンは弾かれたように繋いでいた手を振り払う。
隣にいる相手が、見ず知らずの他人であり、恐らく何らかの能力者であり、

もしかしたら、組織に関係しているかもしれないと、思い当たったから。

「い・・・・・・行かない」

怯えた目でカイトを見上げるが、相手は意に介した様子もなく、

「そ。まあ、そうだよね。じゃ、バイバーイ。今日はありがとねー」

リンにお菓子の詰まった袋を押しつけると、手を振って雑踏の中に紛れていった。
一人残されたリンは、ぼんやりとその後ろ姿を見送る。その時、背中に衝撃を感じて、リンはよろめいた。

「あ、ごめんなさい」

振り向いた時には、ぶつかってきた相手はさっさと歩き去っている。まるで、何事もなかったかのように。

「・・・・・・あの、すみません」

横を通り過ぎる女性に声を掛けるが、立ち止まるどころか視線すら向けなかった。


見えて、ない・・・・・・んだ。


それはいつものことだったし、望んでいたことでもあった。自分の存在を知られたら、いつ組織の手が伸びてくるか。
だが。

「そっか・・・・・・見えてないんだ」

リンは呟くと、テディベアに顔を埋めた。
この世界にたった一人で取り残されたと知った時の、あの孤独感が蘇る。
しばらく佇んでいたリンは、とぼとぼと歩き出した。またこの町で、一人生きていかなければならないのだから。



閉店間際のデパートに入り、店員が慌ただしく片づけをする中、リンは一人ぶらぶらと時間を潰す。
頃合いを見計らって寝具売場に行くと、展示されているベッドに潜り込んだ。
店員が引き上げ、館内の空調が切られ、照明が落とされる。リンは枕元にお菓子の詰まった袋を置き、テディベアを抱き締めて、目を閉じた。



『リン、誕生日おめでとう』

誰かがテディベアをリンに渡し、頭を撫でる。リンはぬいぐるみを抱き締め、満面の笑顔を相手に向けた。

『ありがとう、  』

これは夢だと、もう一人のリンが冷めた目で見つめる。手の中のテディベアは薄汚れて縫い目がほつれ、今にもバラバラになってしまいそうだ。
リンがため息をついた時、後ろから手が伸びてぬいぐるみを取り上げる。

『その熊、ぼろぼろだねー』

振り向くとそこにはカイトが立っていて、にこにこ笑いながらほつれを縫っていた。

『大丈夫、俺が取り戻してあげるから』

何を、と問いかける前に、カイトはリンに背を向けて行ってしまう。追いかけようとしたけれど、後ろから伸びてきた腕に捕らえられた。

『仕事だぞ、シザーズ』

拒絶する前に口を塞がれ、暗闇へと引きずられていく。必死に腕を伸ばしても、カイトの姿は雑踏に紛れて消えてしまった。



「・・・・・・・・・・・・んっ」

暗闇の中、リンは目を開ける。涙に濡れた頬を拭い、腕に抱いたテディベアに顔を押しつけた。
もしカイトに会えたら、次は迷わずついていこうと心に決めて。