【カイリン】十四歳の亡霊
店内の照明がつけられ、人の話し声が聞こえる。リンは枕元に置いた袋を手に取り、テディベアを抱いて寝具売場を後にした。
町に出ても、カイトの姿は見えない。リンはふらりとコンビニに入り、せわしなく商品を並べている店員の前に立った。
「すみません」
声を掛けても、店員は振り返らない。手を止めることなく、せっせと仕事を続けていた。再度声を掛けるが、相変わらずの様子に、リンは足を踏みならし、
「こっち見ろよ! ふざけんな!」
怒鳴っても暴れても、誰も見ないし気づかない。リンはがっくりとうなだれ、店を出た。
・・・・・・また、見えなくなっちゃったんだ。
元の状態に戻っただけだと自分に言い聞かせても、心にのし掛かる孤独と寂しさは消えない。食欲もなく、リンは足を引きずりながら、雑踏の中にカイトの姿を探した。
昼過ぎて、歩き疲れたリンは、公園のベンチに座る。
カイトに渡された袋の中を探ってあんパンを取り出すが、食べる気になれず、溜息をついた。
駄目だ。このままじゃ倒れちゃう。
行き倒れようが病気になろうが、誰も助けてくれないし、医者にもかかれない。
リンはあんパンの袋を破ると、無理矢理口に押し込み、えづきそうになるのを堪えながら、強引に飲み込んだ。
一人でも、生きていくって決めたじゃないか。
家族は皆死んだと聞かされている。顔も名前も思い出せないけれど、自分一人が残ったのなら、しがみついてでも生き抜こうと決意した。
いつか、思い出せるかもしれないから、と。
半分ほど食べたところで、目の前に人影が立つ。顔を上げる前に、手の中のあんパンを取り上げられ、
「えー、こんなんじゃ足りないでしょー」
聞き覚えのある声が降ってきた。
「えっ、なっ」
「ファミレス行こうよ、ファミレス。奢るからさ」
口をもぐもぐ動かしながら、カイトがくぐもった声で言う。
「てか、それあたしの! 返せ!」
「いや、もう食べちゃったし。吐こうか?」
「馬鹿か!」
リンの怒りなどどこ吹く風で、カイトはあんパンを平らげた。
「朝ご飯まだなんだよねー。寝坊しちゃって」
「知るかよ」
「いや、朝起きるのが辛くてさ。俺が美しすぎて」
「うぜえ」
「怒ると余計お腹が空くよー」
カイトに手を繋がれ、リンは自分の顔が赤くなるのが分かる。
う、嬉しくなんか、ない!
それでも、求めても手に入らなかった温もりが、今は手の中にあった。リンは急いで瞬きして、声の震えを押さえる。
「歩くの早い! 足切り落としてやろうか!?」
「ごめんねー、俺が美しすぎて」
「うぜえ!」
作品名:【カイリン】十四歳の亡霊 作家名:シャオ