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ブラック・ウルフ

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「船長も強情だな。準備もままならないまま、西太洋に乗り出すことになって」
 後ろ姿を見送りながらあきれたようにクーバが言うと、ロッシは苦笑した。
「まぁ、それがあの人のいいところだ。それに、今西太洋に出ることも悪くない。温海での稼業はすでに頭打ちになってるからな」
 クーバはまじまじと、知的な海賊を見つめた。その時、船首の方からどら声が響いた。
「クーバ。いるんなら、こっちに来て手伝ってくれ」
 それを聞いたクーバは首をすくめた。
「ちっ、見つかっちまった」
「早く行け」
 ロッシに背中を押され、クーバは渋々船縁にそって船首に出た。舳先では数人の男たちが投石用のろくろを一段高くなった床に取り付けていた。その中でもひときわ大きな半裸の男、トィワホがクーバを見つけて手招きする。
「荷積みに人を取られて、手が足りねえんだ。ちょっと、そっち押さえてくれ」
 この男は船の攻撃隊長というべき存在で、幼なじみであるブラックからは『無駄にでかい図体』とからかわれるが、手の器用な気のよい男で皆に慕われている。
 言われた通りクーバはトィワホの正面に回って、大金槌を振り上げている彼の手元を押さえた。
「おれの手の上に落とさないで下さいよ」
「手の上じゃなかったらいいのか?」
「そんな冗談、ちっともおもしろくありません」
 クーバの言葉にトィワホは豪快に笑った。太い腕によって乱れなく打ち落とされる金槌の音が、天に吸い込まれるように小気味よく響く。
 ふとクーバは先ほど疑問に思ったことを尋ねてみようと思った。
「トィワホさん」
 が、かしましく打ち鳴らされる金槌の音によって、クーバの声はかき消される。クーバは声を張り上げた。
「トィワホさーんっ」
 一心不乱にろくろを甲板に叩き込んでいたトィワホは顔を上げる。
「なんだ?」
 クーバは言った。
「一回聞いてみたかったんだけど、なんでロッシさんみたいな頭のいい人が海賊なんてやってるんですか? 学のないおれならともかく、ロッシさんなら陸に上がっても仕事はいくらでもあるでしょうに」
 それを聞いたトィワホは金槌で肩を叩きながら言った。
「海賊に前歴を尋ねるのは失礼だって、誰かに言われなかったか?」
「いや、でも……」
 この人の肩を叩くには、金槌じゃないとだめなんだろうなあ。などと考えながらクーバが言うと、トィワホは手を止めて首を鳴らした。
「実はおれもよく知らねえんだが、妻とその愛人を刺したって言っていたな。おれの勘じゃ、あの有能さを認められて大家の婿養子かなんかだったんだろう。生まれは貧民街って言ってたしな」
「へえ、あの温厚なロッシさんがねえ……。人は見かけによらないですね」
「ああ、よほどのことがあったんだろうな」
「じゃあ、なんでトィワホさんは船長の手下になってるの? 元は友達だったんでしょ?」
 クーバの質問にトィワホは首を傾げた。
「なんでだろうな? 昔からそうだったから考えたこともなかったな。奴はいわゆる餓鬼大将で、おれはいつも第一の子分だった。ただ、一つ言えることは、あいつには並外れた統率力があるってことだな。こいつのためなら死んでもいい、と気負いなく思える何かがあるんだ。ロッシが船を下りない理由も、本当はその辺にあるんじゃないか?」
「とうそつりょく?」
 クーバの質問にトィワホは考えながら言った。
「……つまり、あれだ、人を信じられるかどうかってことだ」
 他人を信じなければ、誰も自分を信じてはくれない。敵には容赦のない男だが、一度仲間になれば、徹底的に信頼を置いて守り抜く。裏切りを恐れない強さと言い換えてもいい。下手なトィワホの説明にクーバは首を傾げたが、それでも、分かった、というようにうなずいてみせた。
「それに、風を読めることもですね。船長が今まで一度も風を読み違えたことがないんですから。次は西太洋にブラックあり、と言われるんでしょうね」
 トィワホは微笑んだ。
「あれは風を読むんじゃない。風を意のままに操るんだ」

作品名:ブラック・ウルフ 作家名:しなち