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真白物語

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 実際にその後休憩を挟んで行われた二次審査を終えてみると、審査員二人の想像した通りの結果となったのである。私は二回戦で、ヒカリは最終戦で彼女と雌雄を決したのだが、結局のところ彼女と彼女自慢のクレセリアには、私たちのポケモンでも実力の高いエルレイド、バクフーンですら、匹敵することができなかったのである。
 最終戦が終わって、授賞式で星野紗江子がミクリ様からアクアリボンを授けられて、ミクリカップは閉幕となった。それから、私たちは大岡先生の好意で、街のレストランで祝いの席を設けて下すったのだが、そのかえるさなかのことである。
 それはもうかれこれ十一時を過ぎたころであったろうか。私はサトシ達と別れて、タクシーを拾うつもりで街の通りを歩いていると、とつぜん曲がり角の向こうから、どたどたと急ぎ足で近づいてくる音が私の耳に入ってきたかと、なにかを抱えた男が飛び出してきて、いやというほど私にぶつかってきたのである。

「ああ、失礼……」

 と言って、ぶつかってきた人に私は顔を向けた。その人は黒い帽子を目深にかぶって、マフラーと外套の襟をふかぶかと立てていて、人相風体どころか、男か女かの判別さえ私には分らなかったが、その人が抱えていたのは人、それも女であるように私には見えた。
 とにかく、私は勇み立ってその人に尋ねた。

「あの、その抱えていらっしゃる方、どうかされたのですか? 具合でも悪いようでしたら、病院にでも連れていかれたら……なんでしたら、私もお手伝いしましょうか?」
「いえ、ただ酔っているだけですから、お気遣いなく……」

 ひどくしゃがれた声である。だが、その声は男のようであった。

「それじゃあ、どうも……」

 と言うと、そのままその男は女を抱えたまますたすたと、私がいまきた道をそのまま遠ざかって言ったが、――後になって、そのときの情景を思い浮かべると、私は今でも恐怖を感じて身の毛がよだつのを禁じ得なかった。
 烏羽玉の闇のなか、その奇怪な男は女を求めてこの街にやってきたのである。――血も凍るような恐怖と戦慄をその身に纏いながら。――
 ああ、もし私があのとき少しでも彼らのことを気にかけていたら!!
 私がそんな後悔を持つように到ったのは、その出来事から一夜明けた翌日のことである。

       五.

 花を意匠したドレスを着て、クサイハナと華々しくステージを舞った久川舞は薔薇畑の中に散っていた。
 誰かによってむりやりにその花を散らされたのだ。
 ミクリカップのときと同じ衣装を着て、彼女は花畑の中にその身を横たえていた。その首には、紐のようなもので絞められた跡がくっきりと残されて、口からは黒に変色した舌をにゅっと突き出している姿は、誰が見ても顔をそむけたくなるものであったが、彼女のそばで、彼女の死骸のかたわらにそっと寄り添って眠っているクサイハナを見た人たちは、ひそかな憐憫を抱いたそうである。
 私はその日、昨日夜更かしをしたせいか不覚にも朝寝坊してしまって、ポケモンセンターで朝ごはんを済ませたときにはすでに十二時を過ぎてしまっていた。そして、ロビーに行って預けていたポケモンたちを受け取りに行った。

「おはようございます。つい、朝寝坊してしまって……」

 あいさつをしたが、ジョーイさんはいつもと変わらない笑みを浮かべて私の顔をながめている。私はおやと思って彼女の顔を見返した。彼女はいつもの笑みを浮かべてこそいても、その中に時折、不安げな表情が見え隠れするのである。

「おはようございます、ノゾミさん。お預かりしたポケモンたちはみんな元気になりましたよ……」

 と、少ししゃがれた声で言うと、看護士を務めるたまごポケモン・ラッキーがモンスターボールの入ったトレイを私に差し出してくれた。

「ありがとうございます。あの、ジョーイさん、――何かありましたか?ずいぶんと辺りが騒がしいようですが……」

 私がおそるおそる尋ねると、ジョーイさんはなおも私の顔から眼を離さずに、

「昨夜人殺しがあったそうです」

 と、ささやくような声で言い、

「コーディネーターの久川舞さんが殺されたのよ」

 ジョーイさんは辺りをはばかって、押し殺したような声でそういったのだが、私にはそれが耳もとで爆発するような大きさで響いた。私は両の拳を握って強く震わせて、大きく眼を見開いて彼女の顔を見直した。
 それは、実際にはほんの一分も経っていなかったと思うが、私にとってはジョーイさんと見つめ合っているその時間が恐ろしく長く感じられた。

「ジョーイさん……」

 私はようやくに、その硬くなった口を開いて、

「久川さんが殺されたって、ど、どこで。誰に……」
「いいえ……」

 ジョーイさんはふるえ声で、先ほど述べたような久川舞殺害の様子を私に伝えてくれたのである。

「そして、それはいったい何時頃だというのです。久川さんが殺されたのは……」
「なんでも昨夜の十一時前後のことだろうということですよ」

 私はそれを聞いてまた、激しいショックを感じた。それでは、昨日見た、薄気味悪い男が抱えていた女というのが、もしや久川舞ではなかったろうか。と、すると、あの男が犯人ということになる。久川舞はあのときすでに殺されていたのだ。いや、殺されていなかったにしても、あのあとすぐに殺されたのだ。私は死んでいたか、殺される直前の彼女を間近で見ていたことになるのだ。

「ノゾミさん、ノゾミさん。あなた、どうかしたのですか?」
「えっ。いいえ、別に……何でもないんですよ。ありがとうございました」

 私は無理に笑顔を見せてその場を立ち去ったのである。ジョーイさんもその作り笑顔には気が付いていたかもしれないけれど、私にはそんなことに気をつかう余裕すら、そのときにはなかった。
 そのときの私の心は乱れに乱れ、要するに、何をどうしたらよいものかさっぱり分からなくなっていたのである。私がその日、五時を過ぎて思いがけなくも、サトシが訪ねてきてくれるまでは、どう過ごしたかも今となっては分からなかった。
 彼はどうやら、カントー警察本部での稽古を終えてきてくれたらしかった。
 サトシの姿を見て、私は少しドキリとした。なぜならサトシは今、警察官の人たちと大変繋がりがあるからである。しかし、サトシはそんな私の心配にも気がつかずに、にこにこと笑いながら、

「あはは、はは……どうしたんだい、いやに警戒しているじゃあないか」
「いや、あんな事件があった後だから、誰だって固くなるよ。サトシだって、あの事件のことで来たんだろう」
「むしろ、どんなふうに過ごしているかを見たかったから。でも、案外普通にしているようだったから、安心したよ」

 そのとき見せた彼の笑顔に、私はなんとなく胸のふさがるのを覚えた。

「ヒカリは、このことを……」
「知っているよ。ニュースにもなったからね……実は今日来たのもヒカリに頼まれたこともあったからなんだよ」
「そう、そんなんだ……いや、来てくれて助かったよ。君にならこのことを話せるから。実はサトシ、――」

 と、私は昨日の出来事をサトシに話して聞かせた。
 すると、サトシはいつにない、難しい顔をして腕を組んだ。
作品名:真白物語 作家名:Lotus