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真白物語

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 その新聞にはそれ以上の詳細こそ記されてはいなかったのだけれども、やはり、この事件の犯人も久川舞を殺した犯人と同一人物であり、ともすれば二番目の殺人が行われる前に殺人鬼を逮捕できなかった警察を痛烈に批判しているものであった。
 大岡先生と偶然にポケモンセンターのロビーで会ったのはその日の夕方のことである。先生はポケモンの回復を終えたところらしく、ジョーイさんと話しているところに私が声をかけると、先生は笑みを浮かべられて、

「やあ、ノゾミさん。奇遇だね、ここで会うなんて……」
「いえ、私も昨日ヤマブキシティに戻ってきたばかりなんです……ところで、サトシは今日、ご一緒ではないのですか?」
「さっきまで一緒だったんだけど、もうマサラタウンに帰ったよ。どうも、昨日の事件のことを聞いてヒカリさんのことが気になって仕方ないらしい。――これも、私の不徳と致すところだ」

 先生は白いものがまじった小鬢を掻きながら、苦笑を浮かべた。

「先生、やはり三田村絵里と久川舞を殺害したのは、同一人物ですか?」
「さて……その質問には何とも返しようがないけど、その二つの事件が関わりあるということは、まず間違いがないだろうね」
「それでは、この恐ろしい殺人がまだ続くと思いますか?」
「彼も、サトシ君もそれについて言及していたが……ノゾミさん。――この事件はコーディネーターを狙うためだとか、そういった単純な事件ではないよ。この事件には大きな目的があって、犯人がその目的を達するために綿密に計画されたものなんだ。それが達するまでは、この殺人が行われると私は思うね」

 そう言われて、私の脳裏に浮かんだのは、伊坂君と星野紗江子である。とりわけ星野紗江子は、彼女を中心として事件は起こっているのではと、私には思えるのである。
 そんなときに、私たちに話しかけてきた男がある。小柄で痩せた体躯に、血色の悪そうな顔に黒ぶち眼鏡をかけた、ミネズミのような男である。星野紗江子のマネージャー・東間久七であった。

「あの、あなた確か警察の関係者でしたよね……」
「ええ、その通りです。あなたは星野さんのマネージャー・東間さんでしたね。私にどういった御用でしょうか?」
「私の主人・星野紗江子が警察の方にこれを届けるように言いつかりまして……警察に赴く前にあなたにお会いすることができましたので、是非とも一度読んでいただきたくお伺いしたしだいです」

 と、先生は手渡された封筒を受け取ると、

「そうでしたか……それでは拝見させていただきます」

 それから、先生は一、二分ほど手紙に目を通されていたが、読み終えたのか便箋を封筒に戻して、香山繁夫に渡した。

「承知したと、君の主人に伝えてください。ジュンサー君も一緒に連れていくから安心してほしいとも……」
「分かりました。ありがとうございます」

 そう言って、東間久七は私たちに深く頭を垂れるとその足でいそいそとポケモンセンターを後にした。
 私は先生の方に振り返って、

「先生、星野さんはどういった用で……?」
「何か話したいことがあるそうだ。明日の昼過ぎに清水欣次郎氏の家に来てほしいとのことだったよ。彼女も今回の事件でだいぶ参っているようだから」
「先生、そのとき私も御一緒してもよろしいでしょうか、いや、是非とも御一緒させてください。お願いします」

 私がそのとき、どうしてこんな要望を出したのかは今となっては思い出すことができない。しかし、しいて言うならば、友人である伊坂君の力になってやりたいとも思ったし、この事件に私たちコーディネーターが関わっているのなら、私自身その真相を見てみたいという、ある種の好奇心が働いたとも思ったのかもしれない。
 それは兎も角、私からの申し出を受けた大岡先生は、最初こそ驚いてその優しげな大きな目を見張っていたが、やがて、私の意図をどう解釈したのかは分からなかったが、笑顔を浮かべられて、

「わかった。それじゃあ、君も一緒にきなさい。――明日の昼十二時にこのポケモンセンターのロビーで落ち合うこととしようじゃないか」
「はい、ありがとうございます」

 私はこのとき、大岡先生が存外簡単に私の申し出を了承してくれたことにホッとするとともに、星野紗江子の話によって、この恐ろしい事件が早く解決することを切に願っていたものである。

       八.

「まあ、ご存じのようにこれも自分に関係ある人たちが次々に可哀そうな目にあっているようじゃ、私も不安ですし、それにいつまでも警察の方にご迷惑をかけちゃいけないって、いまさんざんといってきかせたらこれもやっと打ち明ける気になってくれたようで、また心が変わらないうちにと思いまして、みなさんにご足労願ったという次第でして、――何か余程言いにくいことらしいのですが、秘密はお守りくださるのでしょうな、どうやら、警察ではない方もいらっしゃるようですが……」

 タマムシシティのとある大きなマンション、清水欣次郎氏の部屋の応接室である。清水氏の顔色には大岡先生や私に対する疑惑の色がありありとあふれていた。隣に座っている星野紗江子の顔にも不安の色を隠せなかった。
 大岡先生はともかく、私は確かに門外漢であるからそう言った疑惑を持つのも仕方がないと、私は一人苦笑を洩らしたものであったが、大岡先生はにこにこと笑みを浮かべられて、

「いや、御心配は御尤ものことだと思いますが、こちらのノゾミさんのことならば大丈夫です。彼女は私の助手のようなものですので秘密を漏らすようなことは絶対にございません。ですから、その点はご安心くださっても構いません」

 清水欣次郎氏はそれでも、やや不服そうに顔を曇らせていたが、仕方がないと言わんばかりに溜め息を漏らすと、星野紗江子のほうに顔を向けて、

「そうですか……それでは良子、話しておあげなさい」
「はあ、ありがとうございます……」

 紗江子の声は消え入りそうな暗いか細かった。うちつづく惨劇で明らかの顔は憔悴して顔色が悪く、悪い病気に病んでいるのではと思えるほどであった。
 星野紗江子はちらと横目で清水欣次郎氏の顔をうかがうと、白い頬をほんのりと染めて、

「あの、私、五年ほど前から一昨年までカロス地方で勉強をしていたのでございますが、その間に藤原泰久という方と懇意になりまして……しばらくの間、恋愛関係に至ったのでございます」
「ええ、ええ。なるほど、それで……?」

 星野紗江子の声がともすれば消え入りそうになるので、大岡先生は絶えず傍から励ましてやらねば、話が聞こえなかった。

「ところが、どうも、その内に彼がその、法に触れることをいくつも行っている、大変いかがわしい人だということがわかってまいりまして……」
「失礼ですが、その男はいったいどういう素姓のものですか?」

 と、これを訊ねたのは大岡先生である。
作品名:真白物語 作家名:Lotus