銀魂log...Vol.1
you shut off the one way(桂と銀時)
「俺は、あいつを、斬るぞ、銀時」
「そうかい」
「お前は、斬れぬのだろうな」
「ああ」
間髪いれず、銀時は答えた。 啖呵を切ったばかりのそれは、容易く銀時と、男の間で、息絶える。 銀時という男は、その口から零れるものの、真偽に執着出来ぬ。 又、眼前の、崩れさぬ船などにも、微塵の興味を湧かせなかった。
宙を舞うことは、心地良かった。 頬を撫でるのは、落下からもたらされる風だった。 男が乗った船は、人工の力によって、ふわりと浮いている。 銀時は、それを眺めていた。 桂の後ろで、円を描く白には、見覚えが無い。 しかし男の、鞭撻な舞い方が、銀時の心をざわつかせ続けた。 爆発は、男を飛ばしきらなかった。
男は、銀時を斬ることが出来ぬ。 同様に、銀時は、男を斬ることが叶わない。 桂は、それを承知していた。 随分と昔のことである。 冷徹な精神は、実に聡明だった。 銀時は、それを揶揄しながら、決してそちらに迎えぬ枷にとらわれ続けている。 男と銀時が過ごした時間を、桂も過ごしたのだった。 そこには、不可侵の輝きがある。 銀時は、それを、愛して止まない。
「俺は、あいつも、それからお前も斬れねえだろうよ」
「そうか」
「だから、変わってくれるな」
「俺が、抱えてる、その中から零れてくれるな」
桂は、白い髪をした男が、柔く泣いてしまうのではないか、と危惧した。 爆発音は変わらず続いている。 が、銀時はその音よりもはるか微弱な声をして、嘆いてみせた。
桂と、男は、友人であった。 同じ憎しみの篝火をたいていた。 銀時は、己等を見ながら、笑うことも、泣くことも相応しくない不細工な面構えで、立っている。 そこから、動かなければ、何も変わらぬのだと信じ続けている、何時か宇宙を旅する男は言った。 「あいつは、馬鹿じゃき、おんしが助けてやらんと」 黒い鬱蒼とした頭は、白いそれよりも、遥かに固く、冷たかった。 桂は、眼前に広がり続けるモノクロに、謝辞を述べる。 それは未来についてであった。 桂は、銀時が望むような、不変を貫けぬ。
「銀時、お前のそれは」
「土台無理な話だと、言うんじゃねえぞ」
俺が一番、分かってる。 呟いた白髪は、赤黒く広がる空気を飲み干した。 梅雨は未だ訪れぬ。 じめりとした湿り気が二人の身体を包んでいた。 銀時は、途方もない過去から、己だけがすっぽりと切り取られたような気がしてならない。
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2010/07/14
作品名:銀魂log...Vol.1 作家名:べそ