【かいねこ】クレイジーガールの恋愛衝動
今日も、無事だった。
マスクの下で、カイトは安堵する。
回を重ねる毎に、対戦相手のハードルが上がっていった。予想していたことだけれど、やはり気が重い。
何時まで勝ち続けられるだろう・・・・・・。
負ければ、再起は不可能だろう。自分は廃棄され、リーキは新しい手を考える。それが、何より怖かった。
どうか、明日も無事でいられますように。
信じてもいない神に祈っていたら、後ろから抱きつかれる。
「うわああああああああ!?」
驚きの余り、声を上げて振り返った。小柄な少女が、きらきらした目で自分を見上げている。
「初めまして! 貴方のファンです」
「はっ? え?」
気が抜けていたとはいえ、あっさり背後を取られたことに、カイトは動揺していた。少女の顔をよく見ようとマスクに手を掛け、
『死ねよ、化け物』
過去の記憶が、カイトの頭を冷やす。手を降ろすと、少女を壁際に連れていった。いぶかしげな視線を向けてくる周囲に聞こえないよう、声を潜め、
「誰?」
「あたし、いろは。貴方はカイトでしょう? マスターは、貴方のこと『将軍』って呼んでるけど」
「マスター?」
「あたしのマスター。貴方とお話ししてきなさいって」
カイトは無言で、いろはを上から下まで眺める。メルローが言っていたヒト型は、恐らくこの少女のことだろう。
やっと、隠れ場所から出てきた。
けれど、ここからが本番だ。いろはの背後で糸を引いているクランベリーにたどり着かなければ、意味がない。
カイトは、ガスマスクを指さして、
「怖くない?」
「どうして? あたし、強いヒトが好き。貴方は強くて優しいから、大好き」
その言葉に、思わず笑ってしまう。
「優しい? どこが?」
「だって、相手を壊さないもの。分解するだけ。あたしは壊しちゃうから、優しくないの」
「・・・・・・・・・・・・」
言葉に詰まるカイトに、いろはは笑顔を向けてきた。
「あたし、いつか貴方と対戦したい。今はまだ、マスターが駄目って言うけど」
「・・・・・・女の子とは、戦えないよ。君みたいに可愛い子とは」
「おーい、カイトー」
リーキの声に、カイトは振り向く。
「マスターだ。またね、いろは」
「うん! またお話してね!」
ぶんぶん手を振るいろはに、カイトは手を挙げてリーキの元へ向かった。
作品名:【かいねこ】クレイジーガールの恋愛衝動 作家名:シャオ