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【かいねこ】クレイジーガールの恋愛衝動

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「いろは、将軍との対戦が決まったよ」
「本当!? 良かった!! 何時!?」

はしゃぐいろはの髪を撫で、クランベリーは「まあ、落ち着きなさい」と言い、いろはに試験管を渡す。

「これを将軍の側で割っておいで」

クランベリーから渡された試験管を、いろはは手の中で弄んだ。見た目には、空のように見えるが。

「何か入ってるの?」
「入っているよ。でも、お前は気にしなくていい」

いろはは、黙って試験管をいじり回し、

「何で、そんなこと、するの?」
「おやおや、どうしたんだい、いろは? いつからそんな聞き分けのない子になってしまったんだい? 理由なんて、私がそうしたいからでいいだろう?」

宥めるように笑顔を浮かべるクランベリーに、いろはは黙って頷く。

「そうだよ。お前は何も考えなくていい。いい子だね、いろは」

クランベリーはそう言って、にやっと笑った。



闘技場から出てきたカイトに、いろははそーっと近づく。
まだこちらに気づいていない。こんな風にこそこそするのは好きじゃないけど、マスターの言いつけだからと、いろはは自分に言い訳しながら、こっそり試験管を取り出した。
背後から、静かに。大丈夫、気づかれていない。不審がられたら、「脅かそうと思って」と言えばいい。

そう、何も難しいことじゃない。

いろはが、試験管を握り潰そうとした時、カイトが振り向いた。その拍子にカイトの手がいろはの手を払い、試験管が床に落ちる。

「いろは?」
「あっ!」

いろはは慌てて拾おうとするが、その動きに驚いたのか、カイトが避けようとして、試験管を踏みつけてしまう。

「ああ!」
「あっ、ごめん。大事な物だった?」

粉々になったガラスを呆然と見つめるいろはに、カイトが慌てた様子で謝ってきた。いろはは我に返ると、「どうせ空っぽだから」と言い繕う。

「す、捨てようと思って持ってきたんだけど。ゴミ箱が見つからなくて」
「そうだったんだ。ごめんね、側にいるの気づかなくて」
「ううん、脅かそうとしたあたしが悪いの」

そこで途切れた会話に、いろはは居たたまれなくなり、自分の顔を指差した。

「ねえ、どうしてマスクするの? あたし、カイトの顔が見たいな」
「ああ、これは・・・・・・」

カイトは言い淀むと、いつものようにいろはを壁際に連れていく。周囲を伺ってから、声を潜めて、「内緒だよ」と言った。

「え? うん」
「俺のマスター、今の人で二人目なんだ。前の人が俺を捨てる時、硫酸で顔を焼いてね。それで、気持ち悪いって、化け物って、言われて、色々、あって、ね」

カイトの声が微かに震えていることに気づき、いろはは黙って俯く。酷い目に遭っただろうことは、容易に想像がついた。

「今は? 今のマスターは、カイトに優しい?」
「優しいよ。俺を修理に出してくれた。でも、バグが取りきれなくてね、結局、髪と目は変色したまま」

諦めたように、カイトが笑う。いろはは、胸が締め付けられる思いだった。

どうしてこの世界は、彼に優しくないのだろう。

「だから、今でも人前に出るときは顔を隠すんだ。怖いからね」

そう言ったカイトに、いろはは無言で足払いを掛ける。

「ふわっ!?」

完全に不意打ちだったのか、カイトはあっさり尻餅をついた。戸惑いの声を上げるカイトに構わず、いろはは馬乗りになると、強引にガスマスクを奪い取る。
見開かれた赤い目と視線を合わせた後、カイトの頬にキスをした。

「カイトは、世界一格好いいよ」

そう囁くと、再び視線を合わせる。赤い瞳はまるで宝石のようだと、いろはは思った。

貴方が欲しい。この世界から、貴方を守る為に。

「・・・・・・あたしが勝ったら、カイトの彼女にして」