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【かいねこ】クレイジーガールの恋愛衝動

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赤いパイロットスーツに身を包んだいろはが現れると、闘技場は異様なまでの興奮状態となる。
いつもなら手を挙げて応えるのだが、今のいろはに観客の声援など届いていなかった。

カイト、やっとあたしだけを見てくれるのね。

無骨なガスマスクをつけ、大振りのナイフを手にしたカイトは、身じろぎせずにいろはと向かい合っている。いろはは、開始の合図をじりじりと待ち焦がれていた。

そして、鳴り響く合図。

割れんばかりの歓声は、一瞬にして静まり、驚きと戸惑いが広がっていく。

「カイト・・・・・・?」

いろはの呟きすら、やけに大きく響いた。
カイトの赤い瞳が、いろはに向けられている。手には、大振りのナイフと、たった今外したばかりの、ガスマスク。
会場を埋め尽くした観衆の前で、初めて「将軍」が素顔を晒したのだ。

「おいで、いろは」

場違いなほど穏やかな声で、カイトが呼び掛ける。いろはは、弾かれたように地面を蹴り、素早く間合いを詰めた。腹部を狙って繰り出した拳は、カイトの手を添えられ、するりと軌道を逸らされる。体勢を崩したところに銀色の刃が迫るも、いろはは間一髪で身をかわし、間合いを開けた。

本気、なんだ。カイトは、本気であたしと戦ってくれるんだ。

カイトの視線が、ぴたりといろはを捉えている。どれほど素早く動こうと、決して外れることのない視線に、目も眩むほどの快感を覚えた。

大好きよ、カイト。貴方が欲しい。貴方に触れたい。貴方に触れて欲しい。壊して欲しい。

お願い、あたしだけのものになって。

いろはは、再度間合いを詰める。リーチが短い上に素手の攻撃では、どうしても近寄らざるを得なかった。それがどれほど危険な行為かは、今までのカイトの試合を見て、十分承知している。それでも、いろはは自分の手でカイトに触れたかった。
指先で、肌で、唇で、カイトを感じたかったから。
だが、いろはの攻撃はことごとくかわされ、わずかに触れることすら許されない。カイトのナイフを紙一重でかわしながら、徐々に壁際へと追いつめられていくいろは。
怒号と歓声が、場内を揺らす。

でも、まだ負けるつもりはないよ。

冷静に、いろははカイトの隙を探っていた。
何度も何度も映像を見て、カイトとの対戦を夢想してきたのだ。そう簡単に終わらせたくない。
カイトは、大抵一撃で相手を機能停止にする。ヒト型のいろはなら、狙いは恐らく首から上。

そう、この動き。

正確に急所を狙ってきたカイトに、いろはは素早く腰を落とし、カイトにしがみついた。体に触れさえすれば

『それで、気持ち悪いって、化け物って、言われて、色々、あって、ね』

ほんの一瞬、いろはは動きを止める。

これ以上、カイトを傷つけちゃ駄目なのに。
あたしも同じになっちゃう。それだけは駄目なのに。

気がついた時には、仰向けにされ、カイトが馬乗りになっていた。銀色の光が一閃し、いろはの意識はそこで途切れる。



会場中に轟くブーイングに耳を貸さず、カイトはいろはの体を抱き上げた。切り裂かれた喉から、無機質な配線が覗く。

「ごめんね。ありがとう」

カイトはそっと囁くと、いろはの体を抱えたまま、場を後にした。