【かいねこ】クレイジーガールの恋愛衝動
狭いアパートに戻ったリーキは、カイトに荷物をまとめるよう言う。マスクを外したカイトは、赤い瞳をリーキに向け、
「はい、どうぞ」
空の旅行鞄をベッドに投げた。
「えっ、詰めてくんないの?」
「ご自分でどうぞ」
「ええー、それくらいやってよー。俺、マスターだしー」
「はあ、そうですか」
カイトは、棚の引き出しから大振りのナイフを取り出すと、リーキを壁際に追いやり、肩口に刃を押しつける。
「それくらいのことも出来ない両腕は邪魔ですから、切り落としましょうね」
「わー! ごめんなさいごめんなさい! 自分でやります」
「さっさとしてください」
カイトが離れると、リーキはぶつぶつ言いながら、服を引っ張り出した。
「カイトが冷たい。俺の愛が伝わってない」
「小汚いおっさんからの愛はいりません」
「汚くねーよ! 失礼な!」
「髭剃れよ、おっさん」
「剃りました!」
モニターで闘技場の様子を眺めていたクランベリーの後ろから、少女が近づいてくる。
「お帰り、いろは。首尾はどうだい?」
「あいつ、入院したよ。命に別状はないって。あたしは、手を出してない」
「そうか、ちゃんと言いつけを守ったんだね。いい子だ」
クランベリーは椅子を回していろはに向き合うと、細い体を抱き寄せ、
「ご褒美をあげようね。何が欲しい? つぶしたイチゴに、ミルクと砂糖をかけてあげようか?」
「それより、闘技場に行ってもいい?」
その言葉にクランベリーは苦笑して、いろはの頭を撫でた。
「ああ、いいよ。言いつけ通り我慢したからね。存分に発散してくるといい」
「ありがとう、マスター」
いろははクランベリーの頬にキスすると、素早く身を翻す。
「狼に食べられるんじゃないよ、かわい子ちゃん」
部屋を出ていく背中に、クランベリーは笑いながら声を掛けた。
作品名:【かいねこ】クレイジーガールの恋愛衝動 作家名:シャオ