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【かいねこ】クレイジーガールの恋愛衝動

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闘技場の表門は、とっくに閉められていた。裏側に回ったいろはは、地下へと向かう階段を降り、鉄の扉を開ける。

「ハーイ」

カウンターの向こうにいる恰幅のいい男に声を掛けると、相手は相好を崩した。

「やあ、いろは。今日は出場するのかい?」
「うん、マスターが許してくれたの。誰でもいいから、今すぐ相手できる奴いる?」
「あんたに見合う相手がいるかどうか・・・・・・ああ、丁度いい。こいつにしよう」

男は太った腹の陰から、一枚のコインをいろはに渡す。

「きっと気に入るよ」
「ありがと。何番目?」
「五番目だ。これ以上は無理だよ。こっちにも事情がある」
「分かってる。今日もあたしに賭けてね」

ウィンク一つ残して、いろはは奥へと駆けて行った。



いろはの登録がアナウンスされると、場内が急に色めき立つ。
本来、ヒト型と呼ばれるアンドロイドの出場は禁止されていた。だが、制約の多い表に飽きた人々が集う場所だ、そんな文言は当然のように無視される。それでも、軍事用に改良されたロボットに比べて、アンドロイドは非力だ。修理や廃棄に掛かる費用も馬鹿にならない。その為、今では殆ど登録されない。

だからこそ、ヒト型の対戦は人気なのだ。物珍しさと同時に、嗜虐性を満足させてくれるから。

それに、いろはは今のところ負けなしの為、賭率も高騰する。賭の行方も、人々の関心を買った。



赤いパイロットスーツに着替え、場内に現れたいろはを、歓声が包む。いろはは手を挙げて応えると、目の前にそびえる相手に目をやった。
闘技場用に改良された戦車、その黒光りする機体から伸びた砲台が、ぴたりと照準を合わせている。当たればひとたまりもないだろう。

本気で殺してくれるのね。

相手の殺意が、ぞくぞくするほど快感だった。

あたしだけを見て、あたしのことだけを考えて。
あたしも今だけは、あんたのことだけを考えるから。

戦闘開始を告げるサイレンが鳴り響いた時、いろはの視界には、目の前の相手だけが映っていた。

だから、あんたの全部をあたしに頂戴。




割れんばかりのどよめきと歓声が、クランベリーの部屋にも溢れ出す。

「いい子だね、いろは。お前は私の自慢さ」

堅固な装甲をいとも簡単に素手で引き裂いていくいろはの姿を眺めながら、クランベリーは満足げに頷くと、グラスの酒を一息に煽った。