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【かいねこ】クレイジーガールの恋愛衝動

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リーキはカイトを連れ、カラシナの町へやってくる。あらかじめ手配しておいた安アパートの一室に荷物を置いて、闘技場の下見に出掛けた。

表から眺める闘技場は、よくある娯楽施設の一つに見える。周囲の出店ではジュースやアイスクリームを販売し、家族連れの姿も多く見られた。

「ほおー。なかなか健全な施設みたいだなあ、なあカイト?」

リーキは後ろに立つカイトを振り向くが、ガスマスクをつけたカイトはうんともすんとも言わない。
周囲を歩く人々が、うさんくさげな視線を投げてきた。

「念の為、中も確認しておくか。お前は、先に戻っていいぞ」

リーキがそう言うと、カイトは無言で手を挙げ、さっさと身を翻す。通り道にいた親子連れが、慌てて飛び退いていた。

まあ、慣れっこなんだろうけどさあ。

カイトの異様な姿に、人々は波が引くように道を開ける。本人は立ち止まることなく歩き続け、角を曲がっていった。

やだねえ、人間は。

自分達があからさまに避け、蔑んでいる相手にも心があることを、頑なに認めようとしない。どれほどヒトに似せようと、それはプログラムされた反応でしかないと、一蹴するだけだ。
リーキはポケットから飴を取り出すと、口に放り込む。舌の上で転がしながら、幼い頃からの友を思い出していた。


ドラム缶のような姿をしているから、「ドラム」。安直な名前を付けられたロボットは、リーキの家に代々伝わるポンコツだ。
円筒型の機体に移動用のキャタピラがついているだけのそれは、平らな頭部に物を乗せて運ぶくらいしか能がない。一応、音声認識機能はついているが、覚えられるのは三人までで、両親とリーキを登録して終わりという有様だった。
当然、ドラムが喋ることはないし、感情プログラムも入っていない。ロボットとすら呼べないような、機械の固まり。

それでも、ドラムには心があると、リーキは確信していた。

落ち込んでいる時は、必ず側に付き添ってくれた。
理不尽に八つ当たりすると、謝るまで指示を受け付けない。
幼い頃、近所の犬に追いかけられた時は、体を張って守ってくれた。

『機械は人間を裏切らない。裏切るのはいつでも人間の方だ』

父親の口癖を、何時しか自分も繰り返すようになった。


リーキは、綺麗に塗装された闘技場の壁を見上げる。

なあ、ここで戦ってるロボットにも、心はあるんだぜ?

飴を噛み砕くと、チケット売場へと足を向けた。