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【かいねこ】クレイジーガールの恋愛衝動

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モニターに映る闘技場の様子を、クランベリーは上機嫌に眺める。足下に座っているいろはが、膝に頭を乗せてきた。

「あたしも出たかったなあ」
「しばらく我慢しなさい。お前が出ると、賭が成立しない」

クランベリーは、宥めるようにいろはの髪を撫でる。

「あたし、負けてもいいんだよ?」
「それはそれで、暴動が起きそうだ」

笑いながら酒を煽っていると、闘技場に見慣れないアンドロイドが現れた。
赤いガスマスクをつけた、背の高い男性型。手には大振りのナイフを握っている。

「ほう、新顔だな。ヒト型は人気が高いから、頑張って欲しいね。修理不能なほど壊されては、再戦の機会がなくなる」
「あのナイフ一本で戦う気かな?」
「まさか。他に武器を隠し持ってるんだろう」

対戦するのは、銀色の車体を持つ装甲車。当然改造済みだろうと、クランベリーは踏んだ。
いろはが顔を上げ、クランベリーを見る。

「マスターはどっちに賭けた?」
「今回は賭けていないよ。新顔はオッズも低いしね」
「あたし、あのヒトに勝って欲しいな」
「そうだね、応援してあげるといい。勝利の女神が微笑むかもしれない」

そうは言っても、ヒト型で勝ち残っているのは、いろはだけだ。後は全て壊され、廃棄されていった。

「あたし、あのヒトに勝って欲しいな」

いろははもう一度口にして、また頭を乗せる。クランベリーは艶やかな髪を指に絡めながら、モニターに目を遣った。


勝負を決したのは、一瞬。


クランベリーは驚いた顔で腰を浮かし、いろはも身を起こしてモニターを凝視する。
目の前で、ガスマスクの男が、器用に対戦相手を分解していた。細かな部品も見逃さず、流れるようにナイフを操っている。
余りに異様な光景に場内の観客も沈黙し、静寂の中、ねじの外される微かな音だけが響く。

「綺麗・・・・・・」

うっとりといろはが呟いた。
クランベリーはグラスの酒を一息に飲み干し、考えを巡らす。

こいつは、使えるかもしれない。

正体不明のアンドロイド、これは天の配剤だろうか。



闘技場から出てきたカイトを、リーキが出迎える。

「よう、相棒。いい戦いだったな」

リーキが手を挙げると、カイトも無言で手の平を打ちつけた。周囲の視線を十分意識しながら、リーキはカイトに耳打ちする。

「先に戻ってろ」

頷き、立ち去るカイト。異様な姿のアンドロイドがいなくなった途端、リーキの周りに人が集まってきた。

「あれは、あんたのヒト型か」
「そうさ。ハンサムだろう?」

リーキがにやっと笑うと、周囲から笑いが起きる。ガスマスクに隠された素顔などどうでもいい。大切なのは、その強さだ。

「一杯奢らせてくれ。あんたと、あんたのヒト型に」

隣にいた男がリーキの腕を取る。リーキはにやにや笑いながら頷き、心の中で唾を吐いた。

あいつは、『ヒト型』なんて名前じゃねえ。