【かいねこ】クレイジーガールの恋愛衝動
アパートに戻ったカイトは、ガスマスクを外してベッドに腰掛けると、ナイフの手入れを始める。
今夜、リーキは戻ってこないだろうから、うるさく言ってシャワーを浴びさせたり、ベッドに押し込んだりする必要はない訳だ。
上手く分解できたかな。
対戦相手の姿を思い浮かべ、今頃組み直されているだろうかと考える。傷つけずに分解すれば、再び組み立てるのは容易だ。それなら、廃棄されることもないだろう。
怖かったな。
相手の殺意が怖かった。自分が臆病者だと、カイトは自覚している。殺意を向けられるのが怖くて、傷つけられるのが怖くて、傷つけるのが怖いから、相手を無力化する方法を身につけた。必死に。
後、何戦すればいいんだろう。
嫌だと言えば、リーキは直ぐに別の手を考えるだろう。けれど、それは期待に背くことだ。
役に立たなければ、捨てられる。それが怖かった。
俺は、彼の期待に応えられているだろうか。
ナイフの刀身に映った自分を覗き込む。赤い瞳がライトを反射して揺らめいた。
『人を殺せば罪になるが、ヒト型は罪にならない』
何度も聞かされた言葉。前の主人は、合法的に殺人を犯す方法を編み出し、それを実践した。何度も壊され、何度も修理され、最後は飽きたのか、硫酸で顔を焼かれて捨てられた。
醜い姿は、悪意と暴力を引き寄せる。廃棄物処理場でガスマスクを見つける頃には、奪い取ったナイフの扱いにも大分慣れていた。
「・・・・・・やめよ」
ぽつりと呟いて、カイトは手を止める。
考えても仕方がない。今更やめられるはずもない。
狙いは、クランベリーの所有するヒト型。
隠れんぼは苦手なんだ。引きずり出してあげるよ。
ナイフを引き出しにしまい、カイトはベッドに寝転がった。
作品名:【かいねこ】クレイジーガールの恋愛衝動 作家名:シャオ