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ユースティティア

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 G−ON屋上に設置されたヘリポートに機体が着陸するなり、シャアはブレードが起こす強風を省みる事無く機外へと身体を滑らせる。
屋上の出入り口には幹部達がシャアの到着を待っていた。

「CEO! 御無事で!!」
飛びつかんばかりの喜ぶ顔にシャアも表情を緩めたが、直ぐにその足は統合コンピューター室へと向かった。

最下層に存在する統合コンピューター室へと向かうエレベーターの中で、シャアは一言も発しない。
シャアの醸し出す緊迫感に、CEO奪還に狂喜していた幹部達もかける言葉をなくす。
エレベーターの扉が開ききるのを待てないとばかりに身をねじ込むシャアに、周囲は顔を見合わせるだけだった。

「アムロ!!」

シャアは統合コンピューター室に飛び込むなり、アムロの姿を探した。
愛しい姿は室内の最奥に位置する端末の前に座っており、その後に立つジョニー・ライデンがシャアの姿を認めると、アムロの耳に何事かを語りかける。
アムロは小さく頷いた様だが、シャアの方を見るでもなく姿勢は一向に変わらない。
他の男がアムロに接するのを目の当たりにし、シャアはカチンッときた。
大股でアムロの許へと向かいながら、壁一面を占めるディスプレイに視線を移したシャアの歩みは、根が生えたように止まった。
壁一面を占めたディスプレイの一部分から、開かれていた画面が急速に消えていくが、その数が膨大な量である。
防犯カメラからの映像は言うに及ばず、監視衛星からの画像、建物の設計図、IT機械の内部設計図ならびにそれへの指示優先権既得画面など。
並べられ重ねられている数は、軽く見積もっても三桁になるだろう。

“これ程の量をハッキングしていたと? ・・・どんな能力を持ってすれば、それが可能なのか。・・・・・・と言うより、これは人が為せる技なのか”

アムロの技術力を充分に知っていたと自負していたが、それを上回る能力にシャアは感嘆を通り越して恐怖すら覚えた。

シャアが固まっている間に画面は次々消され、最後の一つが消えた時、室内に誰からともなく大きな溜息が零れた。
アムロの手がインカムを外し、サークレットとコンピューターを繋げていたケーブルを音声変換装置へと繋げ直し、サークレットをはずした。
その動きを視界の端に認めて、シャアはようやくディスプレイから視線を引き剥がした。
アムロとシャアの視線がここでようやく交わった。
アムロの瞳は達成感に輝いていたのだが、シャアの視線を受け止めるなり急速に暗いものに変わった。
「・・・シャア・・・」
アムロが躊躇いがちに名を呼ぶ。
「・・・ア・・・アムロ・・・」
シャアは笑顔を作ろうとした。
しかし、上手くいかなかっただろう事は明確だ。
アムロの顔が酷く傷付いたものになったのだから
それを目にした途端、シャアは己の失敗を痛感した。

自分を救い出す為に己の技量の全てを出してくれた愛しい相手に対して、感謝こそすれ恐怖を抱くなど言語道断だ。
「アムロ、すまなかった」
シャアはアムロへと手を差し伸べた。
アムロも戸惑いながらもシャアへと両手を差し伸べたが、その手が繋がれる直前に、小さな手が重力に引かれる様に下降する。
アムロの身体が椅子からズルリッと滑り落ち、床へと崩れ落ちた。
「アムロッ!!」
シャアはアムロの身体が床と接する前に掬い上げたが、アムロの顔は蒼白になり、目の下に青黒い隈が薄っすらと見られる。意識は消失していた。
「アムロ? アムロ?!」
シャアは腕に抱き上げると頬を軽く叩きながら名を繰り返し呼んだが、閉じられた眼瞼から一滴涙が伝うのみで、琥珀の瞳が表れる気配は無かった。
「アムロさん!!」
二人を遠巻きに見ていたメンバーが慌てて駆け寄り、ナナイがアムロの首筋に手を当て、脈拍を見る。
「大丈夫なのか?!」
心配するあまり怒鳴りつけるようになるシャアの声に、周囲は宥めきれる言葉を持たなかった。


 アムロは医務室へとシャアの手によって運び込まれた。
産業医として在中する医師は、初老の経験豊富な女医だった。
慌てるシャアを宥めると、意識をなくしたアムロを診察台に寝かせるように指示し、血圧やら呼吸、血液検査を素早く行った。
結果、アムロが昏倒したのは強度の過労によるものだとの診断が降りた。
しかし、その結果が出るまで、診察室はピリピリとした雰囲気に包まれた。
アムロの手を握り締めたまま銅像の様に動こうとしないシャアに、誰も声をかけられないでいたのだ。
そんなシャアは、結果を持ち帰った医師により、己の腑甲斐無さを再び味わうことになる。

「奥様が夫の為にこれ程頑張っておられたというのに、その夫は手を握って祈ることしかしないのですか? 奥様の労に報いる行動がとれないと? 夫を助けるだけでなく、夫の企業の信念を貫く為に、身重の身体を限界まで酷使して倒れられたというのに、そこまでしてもらった夫がこれでは情けなさ過ぎる! そうは思われませんか」

データーを挟んだバインダーを掌に打ちつけながら心底呆れた口調で諭され、シャアは目が覚める思いをした。

「ナナイ。改めて大統領と国防長官との面談を組んでくれ。G−ONの企業理念を国家に理解してもらわねば、この先も同様の事件が起こる可能性がある。その危険性を最小限にする為に、何としても納得をしてもらう」
執務室へ戻るなりそう告げたシャアの姿に、先程までの動揺や落胆は見られなかった。
いつもの、信念を持って立つ大企業のトップとしての姿がそこにあった。
「畏まりました。先方のスケジュールを伺い、調整に入ります」
ナナイは気持ちも新たに、颯爽と己に任された戦いに挑んでいった。
                        2011/03/07
作品名:ユースティティア 作家名:まお