ユースティティア
「奥様。お客様がお見えです」
「お客・・・様? 今日は 誰か訪・・・問する予定 があった?」
アムロは妊娠がはっきりした時期から、音声変換器を外すように心がけていた。
なぜなら電磁波が胎児にどのような影響を齎すか解らなかったからである。特に神経や身体が出来る妊娠中期までは、極力、脳波感知キーボードの装着をひかえていた。
「いえ。ですが奥様がお喜びになられる方ですよ。お通ししても宜しいでしょうか」
「意地悪なエド・・・ワルドさん。私が喜ぶ方を お待たせ しないで」
「畏まりました」
互いに微笑みながら会話をし、エドワルドはアムロが夕食の食材の下ごしらえをしているサンルームの入口へと視線を向けて、扉の前に立つメイドに軽く頷いた。
「アムロ、ご機嫌はいかが?」
メイドが開けた扉からはアムロの顔を満面の笑みにする相手が入ってきた。
「ミライさん!!」
アムロは膝の上に広げていたごみ受け代わりのラッピングペーパーのせいで立ち上がる事が出来なかったが、両腕を大きく上げてミライに抱き付こうとした。ミライもアムロをしっかりと抱きとめ、優しく頬擦りをした。
「元気そうね? お腹の子も順調?」
「はい! 少し小さ・・・めだそうですが、元気に お腹を蹴った・・・り叩いたりして きます。きっと男の子 でしょうね』
「あら、性別、訊かなかったの?」
「ええ。シャアが 生まれた時・・・の喜びを減らし たく無いって・・・言って、Drから聞かな かったんです』
「彼らしいと言えば彼らしいけど、産着やおもちゃの準備はどうしているの?」
ミライの質問に、アムロとエドワルドが互いに視線を合わせると苦笑いを漏らした。
「ははぁ〜ん。その表情ではとんでもない事になっていそうね」
「・・・ご明察。男女両方 をおそろいで買って来・・・るから、子供 部屋は 荷物だらけです」
「私も無駄な事をなさらないようにとお諌め致しましたが、旦那様は、余ったほうは施設にでも寄付すれば済む事だとお聞き入れなされません」
「彼らしいわね」
ミライも二人同様に苦笑いを浮かべ、その後に三人で大笑いをしたのだった。
エドワルドがお茶の準備に退出すると、アムロは会話をスムーズにする為に音声変換装置を取り付け、ミライへ問いかけた。
『今日はどうしたんです? お店はお休みなんですか?』
ミライはアムロがしている下ごしらえに手を貸しながら、これまた苦笑いを浮かべた。
「シャアさんから連絡が来たの」
『シャアから? ミライさんの所へですか?』
「ええ。今日からアムロが自宅で産休に入る。退屈しないように顔を出してもらえまいか・・・ってね」
『やだわ、シャアったら! 私、そんなに子供じゃありません!』
「知ってるわよ? アムロが大人だって事はね。でも、心配なのよ、彼は」
『私が無茶するかもって? エドワルドさんも傍にいるんだから、無茶なんて出来ないのに』
「それでも・・・よ。貴女とお腹の中の子に何事か起こりでもしたら、彼がどんな行動に出るか・・・。考えただけでも怖いわよ」
『・・・・・・・・・シャアは・・・そんなに非道・・・なんですか?』
「そう・・・ね。愛する者に対する想いのかけ方は、並大抵じゃないって事だけは言えるわね。自分の愛する者を傷付けられたり貶められたら、その報復は常の彼からは想像がつかないくらい冷淡で残虐なもの・・・でしょうね」
アムロはミライの告げた言葉に、瞳を曇らせる。
自分が言語障害となった陵辱事件の犯人と首謀者たちが、どんな憂き目を見たのかは聞かされていないし、正直聞きたくない。
しかし、ミライの今の言葉からして、彼らの受けた報復は筆舌に尽くしがたいものだったのだろう。
シャアの自分に向けてくれる愛情は嬉しい。
しかし、その反面、愛情ゆえに起こす敵に対する言動は、彼の品位を貶める事になりはしないか
その事が、アムロには懸念材料となっていた。