ユースティティア
CEOの執務室からG−ON社屋の最深部に位置する統合コンピューター室にアムロは初めて足を踏み入れた。
小さな体育館ほどの大きさのスペースに、無数に並ぶスーパーコンピューターは、G−ONの頭脳である。
各支所からの情報や市場の変化、顧客情報等、ありとあらゆるデーターが送られてくる。
コンピューター関連に精通し、画期的な開発を量産するアムロだが、情報管理に対しては一切関知してこなかった。
シャアに次ぐ最優先権を与えられていても、アムロがその権利を使用してこのコンピューターにアクセスする事は今まで無かったのである。
『流石にIT最大手の統合コンピューター室ですね。かなりな作業能率を持っていそうです』
「はい。国家所有のスーパーコンピューターの双子的存在ですから」
アムロの言葉に初めて会う男性が答えた。
「はじめまして。コンピューター室長のジョニー・ライデンと申します」
『すみません。貴方の聖域に踏み込んで・・・』
「構いませんよ。アムロ様はCEOの奥様です。このG−ONの中で、貴女が入り込んでいけない箇所はありません。何処でもフリーパスですよ」
『とは言え、今回の作業は・・・』
「そちらも気になさらず。思う存分、やられたい事をなさっても業務内容に支障は出ないと確信してます」
『そうですか。では、一切躊躇せず作業に入ります。今からは殆ど会話は成り立たなくなると思われます。ですが、シャアを救い出す為の作業ですから、何があっても私を止めないで下さい。良いですね?』
アムロはそう言い端末の一台に陣取ると、脳波感知用のサークレットからケーブルを引き抜くと端末へと繋げた。
そして、音声用のインカムを装着し、キーボードも準備する。
<open>
コンピューターから合声音が発せられるなり、壁一面を締めるディスプレイの一部に次から次へと色々な画面が浮かんでは消えを繰り返し始める。
見つめている内の何人かは、目まぐるしく変わる画面に吐き気を覚えるほどのスピードだ。
アムロの指はピアニストがピアノを奏でているかのようにキーボードの上を滑り、インカムには言葉が聞き取れないながらも単語を吹き込んでいる。
脳波感知キーボードも同時に駆動しており、アムロは一人で3タイプの検索作業をしているのである。
そして、開かれる画面の中から必要と思われる物だけがディスプレイ上の一画に順番に集められていく。
その画像は、道路上を走る車を映していた。
店舗に設置された防犯カメラの映像であったり、速度違反を取り締まる目的での監視カメラであったりしているが、そのいずれにも同じ車両が映し出され、その画像に、道路地図が重ねられる。
途中からは航空管制の画面も出現し始めた。
<目的地 ペンタゴン>
合声音が車両の最終的な到着場所をはじき出したのは、アムロが作業を開始して10分に満たない時間だった。
「これは・・・・・・・人が、為せる、こと・・・・・・なのか・・・・・・」
室内にいる全ての人間が抱いた思いを、一人が代弁した。