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錆声

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小平太

 電話が鳴っている。静まり返った部屋に微かに電子音が聞こえるが、その音は小さく今にも消えそうだ。小平太は慌ててそこら中をひっくり返して携帯を探す。部屋の中は散らかり放題で、呼び出し音が止まったら見つけられなくなるのは確実だ。
 就職の時に探した、交通の便がいい代わりに狭いアパート。ベッドと机を置いた残りの床には先週のプレゼンに使った資料が散乱しているし、机の上には書きかけの企画書がいっぱいに広げられている。小さな台所はだいぶ前に使った食器、レトルト食品とコンビニ弁当の残骸で埋まり空いたスペースはない。洗うのが面倒で脱いでは放り投げ、いつのまにかできていた衣類のタワーが崩れて、床と散らばった資料を覆っている。
 あとここを探して、なかったら諦めよう。そう考えて、そこらに散らばった衣類を掴んでは後ろに放り投げる。電子音が僅かに大きくなった。
「あった」
 小さな機械の固まりをひょいと持ち上げると、先ほど放り投げた衣類が新しく築き上げた小山に座り、ちっぽけな画面を見る。表示されている名前は『ギンギン』だった。
「うっわ、懐かしー」
 ぽつりと呟いて通話ボタンを押す。
「文次郎のほうから電話してくるなんて珍しいねー。どうしたの?」
 返事はない。
「もしもし、もしもーし? ……文次郎、だよね?」
 返事は返ってこない。間違い電話かと思うがそうだったらとっくに切られている筈だ。切ってしまおうかとも思うが、部屋中ひっくり返して探したのに一言の会話も無しに切るのもなんだか悔しい気がして思い止まる。
「もぉんじろー! 元気? 私はねぇ、元気だよ。仕事はめんどくさいけどちゃんと会社行ってるよ。最近はちょっと頑張っててね、今も仕事してたの。でもやっぱり一人暮らしって大変だねぇ。もう部屋ごっちゃごちゃでさ、それで今も携帯見つかんなくて出るのに時間かかっちゃったんだ。ごめんね」
 相も変わらず電話の向こうはうんともすんとも言わない。
「文次郎もちゃんと働いてる? そういえばどこに住んでるの? 前居たとこから引っ越した?」
「……いや」
 やっと返事が返ってきた。
「じゃあ今から行く! 私に電話してきたってことは暇なんでしょ? 鍵開けといてねー」
 そう言って返事も待たずに電話を切ると、残り少ない洗濯済みの引出しの中から適当に服を出して着替える。物が散乱した部屋の中で唯一整頓された場所、冷蔵庫の中から冷えきった財布と鍵を握って、小平太は深夜の街に飛び出した。
作品名:錆声 作家名:伊瀬