こらぼでほすと ダンス1
「カガリのエスコートしなくていいならな。カガリの誰かやってくれる? 」
キラと悟空は、すでにエスコートの指名を受けている。カガリが指名したのは、悟空だったのだ。
「カガリが指名したのに断ったらマズイ。それなら、俺がフェルトのダンスの相手はしようか? ママニールにはエスコートだけしてもらって代わればいいんじゃないか? 」
「でも、アスラン。フェルト、ママと踊りたいんじゃない? 」
「だから、後半にチークダンスでもしてもらえば、どうだろう? ああいうのは、フェルトも俺たちとは踊りたくないだろうし。」
アスランの提案に、そういうのもありか、と、一同も納得した。身体を密着させるようなダンスなんて、フェルトも、それほど親しくないスタッフとは踊りたくないだろう。とはいっても、やはり踊らなければならないわけで、ニールの特訓は続くことになるはずだった。
身体を音楽にあわせて、適当に揺する。というのは、音感がある人間には、造作もないことだが、音感のない人間にとっては、どうすりゃいいのさ? レベルの苦行となる。
「だぁーーーっっ、足、足っっ。踏んでるっっ。」
「え? あ、ごめん。」
ぼぉーっと身体を揺らしていたら、ハイネの足を踏んづけていたらしい。慌てて離れると、あいててて・・と、ハイネが足を擦っている。湿布でもしたほうがいいんじゃなかろうか、と、家に走ろうとしたら、腕を取られた。そして、ハイネは立ち上がり、ニールの首筋に手を置く。
「・・・悪い・・・やりすぎた。」
「は? 」
「おまえ、熱あんだよ。」
ここんところ、毎日二時間、練習をしている。大した運動ではないと、ハイネは思っていたのだが、それでもニールは疲れるらしい。そのまま脇部屋に連行して、横にする。
「いや、ちょっとあるだけだろ? 」
「そのちょっとの時に身体を休めとけば、高熱には発展しない。とりあえず、解熱剤。・・・・もしかしてさ、俺らが出勤した後も練習してるとか? 」
もしかして、と、ハイネが尋ねたら、是という答えがニールから戻って来る。フェルトはまもなく降下してくる。やっぱり、親猫としては、桃色子猫を格好良くリードしてやりたいわけで、それには、ある程度、身体に足捌きを叩き込んで無意識にも足が動くようにしておきたかった。寺の一団が店に出勤した後、とりあえず練習はしていたのだ。
その答に、ハイネは大きく息を吐き出した。わかりやすい溜め息というものだ。
「あのな、ママニャン。細胞異常が完治するのと、体力が回復するのは別物だって理解してるか? おまえの体力って、底辺まで落ち込んでるんだぞ? 何時間も練習したら疲れるんだよ。」
「別に、畳の上でクルクル廻ってるぐらいのことだぜ? ハイネ。」
「・・・・半年前の状況を省みろ。俺らが出勤したら、帰るまで横になってなかったか? 」
「ああ。」
「ようやく、横になって待たなくなったぐらいの体力で、それ以上に身体を動かしたら、オーバーヒートするだろ。」
このバカ、と、ぺちっとニールの額に冷却シートを貼り付けて、ハイネが叱る。まだ、ようやく細胞異常が完治したぐらいのことで、本格的な体力づくりなんてさせてない。だというのに、天然ですっとぼけてくれるのだから、ハイネもコメカミに手をやる。
「でも、最初だけは俺なんだろ? ステップさえ覚えたら、どうにかなるって。」
「そこじゃない。体調を崩すのはヤバイっていうことだ。ドクターストップになったら、それこそ、フェルトちゃんが、がっかりするってーいうんだよっっ。」
そう言われるとニールも黙る。体調がよくなくてオーヴに一緒に行けない、なんてことになると、確実に刹那とティエリアが説教しに降りて来る。
「自主練は、すんなよ? 無理ならエスコートだけで、俺が代わりに踊るからさ。」
「そうしてもらえると有り難いなあ。俺には、そういう素養はねぇーって。」
ハイネからの申し出に、ニールは苦笑する。そんな華やかな場所に出向いたことはない。あっても、仕事のためだから踊る必要はなかったし目立ってもいけない商売だった。だから、どうしても、こういうものは苦手だ。
「ということはだな、ライルもないのか? 」
「さあ、どうだろうな。そこまで、双子って酷似してるわけじゃないぜ? 俺は遠距離射撃のほうが得意だけど、あいつ、乱戦で近距離攻撃のほうがいいらしいからな。」
同じ遺伝子搭載だが、何から何まで似通っているというわけではない。それぞれの得意分野は違っていたりする。
「見た目だけってこと? 」
「そうなんじゃないか。パーツは、同じ情報から生成されてるから似てるんだろうけど、中身まではな。・・・だいたい、あいつ、バイじゃねぇーか。あれだけでも、全然違うぞ。」
「あーそうだったな。とりあえず、テレビでも見て横になってろ。」
ものすごーく納得のいく理由が見つかったので、ハイネも言及はやめる。どっちかと言えば、なんでもありな生活をしていたニールがノンケなのだ。嗜好までは似ないというのは、それで立証されている。
ハイネも休憩とばかりに、ニールの横に寝転んで、ペーパーバックを読み始めた。それほど忙しくないので、ハイネがニールの相手を担当している。他のものは適宜、顔を出しているので、おやつ時間になれば誰かが顔を出すだろう、と、思っていたら、回廊から足音が近付いて脇部屋の障子が開いた。坊主が、ひょっこりと顔を出した。女房が布団で寝ているのは、いつものことだが、額の冷却シートに目を留めた。
「なんだ、死にかけたのか? 」
「オーバーワーク。フェルトちゃんのダンスは俺が踊るわ、三蔵さん。こいつ、スポ根で身体に覚えさせようとしやがるから危なくてダメだ。」
「それなら、俺が昨日、アスランに駄目押ししておいた。誰か代わってくれることになってたぞ。」
「うん、そのほうがいいな。・・・なあ、三蔵さん、今回は遠征してくれるんだよな? 」
「ああ? 俺に妖怪退治をしろっていうのか? 」
オーヴへの遠征は、一応、『吉祥富貴』の慰安旅行ということになっているので、ほぼ全員が参加する。たいがいの場合、坊主は歌姫様が参加するイベントには不参加の方向だが、今回は参加させるつもりをしている。たぶん、フェルトが三蔵が行かないと言うと、がっかりしそうだからだ。
「いや、ママニャンがダメなら、あんたがパパとしてフェルトちゃんをエスコートしてやるっていうのが筋だろ? それなら、フェルトちゃんも喜ぶだろうし。・・そうだよ、あんたがエスコートして踊ってやればいいんじゃないか。踊れるんだからさ。最初の一曲だけ踊ってやれよ。それで万事解決だ。」
フェルトは、三蔵が大好きなので、それはそれで、いい思い出になるはずだ。
「おまえが踊ればいいだろ? 」
「もちろん、二番手には立候補するけどさ。最初は、親しい人間が踊ってやったほうがいいんじゃないか? 」
「俺にふるな。」
「三蔵さん、俺の代わりにお願いします。」
寝ていると思っていたニールまで起き上がって、頼んでくると、さすがに坊主も無碍にはできないらしい。
「起きたのか? 」
「うとうとしてただけですから。フェルトは、あんたが理想の旦那さんらしいから、喜びますよ。」
作品名:こらぼでほすと ダンス1 作家名:篠義