こらぼでほすと ダンス2
プールサイドには、ちゃんとデッキチェアが設置され、パラソルも置かれていて快適な空間になっていた。オーヴは特区より南にあるので、三月中旬とはいえ、かなり温かい。さすがに泳ぐほどに暑いわけではないが、悟空とシンは、すでにジェットスキーで暴走していたりするぐらいには暑い。
意外にも、プールサイドには人が溢れていた。よく見ると、トダカの周りに親衛隊がへばりつき世話をしているらしい。だが、アマギはいない。
「あれ? フェルトちゃんは? 」
トダカが気付いて声をかける。降下したら、親猫にべったりとくっつき虫と化する桃色子猫の姿がない。
「カガリとラクスに拉致られました。なんか準備がいろいろとあるらしいです。」
「そうか、女性陣の準備は大変だからね。」
「トダカさんも踊れるんですか? 」
「一応、踊れるが三拍子ぐらいだけだ。激しいのは腰にくるから無理。・・・・娘さん、ちょっと、そこに座りなさい。」
トダカが、自分の隣りを指し示すと、そこに居た親衛隊員は、即座に避ける。それから、周囲の隊員も、いそいそとニールの飲み物なんぞ注文していたりする。だというのに、トダカの娘は、自分の亭主の横に座り込んだ。
「お疲れ様です。」
「おい、ビールがないぞ? 」
「え? はいはい。」
三蔵のグラスは空だ。女房のほうは、別荘のスタッフに声をかけに走っている。世話をしろ、と、命じられているので、せっせと動いていつも通りの対応だ。
「三蔵さん、ママに用事は言いつけないで、直接、スタッフに。」
レイが注意するのだが、坊主は、どこ吹く風でタバコに火をつけている。
「どうだい? 南国リゾートっていうのは? 」
で、ハイネが三蔵の側のチェアに座る。
「悪くないな。メシさえクリアーなら、また来てもいい。」
「そっちは大丈夫だろう。オーヴは極東の料理がメインだからな。・・・あ、でも、今夜はあれか? レイ。」
今夜は、正式な洋風料理で、その後にダンスという流れだったはずだ。
「そうです。今夜は、正装して洋風マナーです。」
「それ、たぶん、ニールが頼んでるはずだよ、レイ。アスランくんに、料理の変更を頼んでいたから。」
トダカが、のんびりと説明しつつ、こちらも冷えた吟醸酒を口にしている。事前に食事なんかも確認して、アスランに坊主の分は和風か中華風にしてくれるように頼んでいた。まあ、ニール自身も、あまり濃厚なものは受け付けないから、トダカやアスランも考えていたから対応してあるとのことだ。とこまでも、亭主を甘やかしている。
「はい、お待ちどおーさま。ハイネ、レイ、ビールでいいよな? 」
そこへ、ニールが戻って来た。トレイに何人分かのビールを運んでいる。
「親衛隊のみなさんも、どうぞ。足りますか? 」
いやに多いな、と、思ったら、親衛隊の分も運んで来たらしい。そして、まず亭主にグラスを渡している。
「他のの世話はするな。」
「そうはいきません。だから、あんたに、一番に渡してるでしょ? 他には? 」
「おまえも飲め。」
「はいはい。」
レイやハイネ、親衛隊にもグラスを回して、ニールが坊主と父親の間のチェアに座る。
「娘さん、私のは? 」
「ビール、飲みますか? トダカさん。」
「いや、これ、酌してくれるかい? 」
ちゃんと、ワインクーラーが設置されていて、そこに吟醸酒の瓶が冷やされている。それを親衛隊から受け取ると、トダカのグラスに注いでやる。
「今日は、アマギさんはいらっしゃらないんですか? 」
「ああ、今回はオーヴ本国組だけなんだ。きみも、あまり知らない顔ばかりだろうけど、気にしないで用事は頼めばいい。」
オーヴ本国に戻っているので、その場合は、本国組が担当するのが常なのだという。トダカーズラブは、半数がオーヴにいるので、こういう場合は特区組は遠慮するのだとおっしゃる。そういえば、正月に顔を合わせている人が、何人かはいる。ニールのところに、ひとりが、ハイビスカスが飾られた青い色のカクテルが配達してくれた。
「ニールくん、我らもトダカーズラブの人間だ。遠慮なく、用事は頼んでくれて良いから。」
代表して、一人が、そう言ってくれるが、いえいえ、と、ニールは手を横に振る。
「いつも、トダカさんにお世話になってます。えーっと、今回、俺は亭主の世話がメインですので、トダカさんのほうはお願いします。」
ぺこっと頭を下げて、親衛隊のほうに挨拶すると、トダカは残念そうな顔だ。
「たまには、お父さんと一緒に遊んでくれないのかい? 娘さん。」
「すいません。三蔵さんの世話をするのが、今回の参加の条件なんですよ。たぶん、三蔵さんとトダカさんは一緒に行動するだろうから、一緒はできると思います。」
「なんて、独占欲の激しい婿だろうね? 三蔵さん。私は、息子、娘と孫と楽しみたいんだけど? 」
「孫は貸してやるが、女房は貸さん。あんたには奴隷がいるだろ? 」
「奴隷って・・・親衛隊はいるけどさ。うちの子、こういう時に、ゆっくりさせてやりたいんだ。」
「家事はねぇーんだから、ゆっくりできる。」
「はいはい、ふたりとも、とりあえず乾杯しましょう。」
婿と舅の取り合いが始まったので、ニールが、それをやめさせる。レイもおいで、と、自分のチェアに呼んで、カチンとグラスを合わせる。
「慰安旅行、楽しもうぜ? レイ。」
「はい、明日、珊瑚礁を見に行きましょう。トダカさんのお勧めポイントのひとつが近くにあるそうです。」
「ああ、それはいいなあ。三蔵さん、一緒に行きませんか? 」
「どうせ。桃色子猫が俺も誘いやがるだろうからな。」
女房独占といっても、二人っきりを希望しているわけではないので、坊主も、そういうものなら参加してくれる。坊主にしても、あまり海とは縁が無かったから、珊瑚礁なんてものは見たことがない。
「明日は晴天らしいから、見事なリーフが見られるはずだ。ようやく、きみに見せてあげられるよ。」
一緒に行こうと、トダカも約束していたから、それが叶うのは嬉しい。ようやく、体調が落着いたから、できることだ。
「ほんとに珊瑚礁が見られるなんて思わなかった。ああ、そういや、リジェネも見たがってたんで、今度、別の場所にも案内してください。」
ティエリアの降下のために、ヴェーダで準備していたリジェネは、まだ降りていない。これは、悔しがるだろうから、次回には必ず、参加させてやらなくてはならい。
「もちろんだ。ここのは規模が小さいから、もっと大きなのが本国の側にあるんだ。そっちの時は、みんなで行こう。」
トダカにしても、次の予定をおねだりされるのは悪い気はしないので、頬を緩めて頷いている。ニールからのお願いなんて、今まで、あまりなかったからだ。
「でも、ママ。次は、プラントです。」
「いや、レイ。ゴールデンウィークなら纏まった休みだから、ちょっと遠征できるんじゃないか? おまえさんたちも休みだろ? 」
「それはそうですが。」
「いいじゃねぇーか、若いうちは、いろいろと遊んでおけよ。勉強ばっかでも楽しくないぜ? 」
作品名:こらぼでほすと ダンス2 作家名:篠義