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こらぼでほすと ダンス3

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「俺、ダンスしてから本格的に食うよ、ママ。そうでないと、パンツのボタンが吹き飛ぶからさ。それに洋風だと、パンだから腹に溜まらないぜ? 」
「うん、そうだな。別荘の人に、夜食用意してもらえるように頼んでおく。ということは、米のほうがいいな。」
「うん、がっつり系でっっ。ここの風呂、でかいから、一緒に入ろうな? 泳げるくらいなんだ。」
「はいはい、その格好で暴れない。男前が台無しになる。」
 どこの親子さん? な会話が展開しているが、気にしてはいけない。中身は、こんなものだ。坊主は、ソファに座って新聞なんか読んでいるし、緊張感も何もない。他のものは、大広間で待っているので、ここにはいないので、ツッコミするのもいない。
「ママ、僕にも夜食っっ。僕、和菓子がいい。」
「え、和菓子? そんなのあるのかなあ。尋ねてみるけど、無かったら我慢しろよ? 」
「えーーーワラビ餅っっ。水羊羹。あんみつぅぅぅ。それがいい。」
「だから、材料がありゃ作ってくれるだろうけどさ。」
「じゃあ、ママが作るとか。」
「うーん、あんみつなら寒天と果物の缶詰あれば、なんとか体裁はつけられるか。」
 食事が終わってから短時間で作成するとなると、そこいらが妥当か、と、ニールは考える。ワラビ餅は作り方がわからない。水羊羹もしかりだ。あんみつだけは、何度か作っているから、なんとかなりそうだと考えていたら、衣装室の扉が開いた。
「こら、キラ。私たちのおかんに家事をさせるなっっ。それぐらいなら、作ってくれる。・・・それから、ニール、ここに居る間は家事を忘れろ。なんのための慰安だと思ってるんだ? 」
 鮮やかなエメラルドグリーンのドレスのカガリが出てきて、開口一番に叫んでいる。黙っていれば、ちゃんとお姫様だが、中身が元サバイバル三昧な青春を送った人間なので素だと、こうなる。
「そうですよ、キラ。ママには、のんびりしていただかなくては。・・・それより、まず、こちらをご覧くださいな。」
 カガリと歌姫の後から、おずおずと現れたフェルトに、全員が黙り込んだ。クリーム色のドレスに頭には、可愛い王冠が載っている。大人の握り拳ぐらいの王冠なのだが、これが社交界デビューの正式な衣装になるのだそうだ。ちなみに、歌姫様は、キラと合わせた水色のドレスだ。カガリも歌姫様もティアラを載せていて、王冠ではない。
「可愛いなあ、フェルト。見違えたぞ。」
 もちろん、親猫は、桃色猫の姿に、大喜びだ。周囲をぐるりと回って、うんうんと満足気に頷いている。
「おかしくない? 」
「全然、おかしくない。とっても可愛くて綺麗だよ? フェルト。俺が、おかんじゃなかったら求婚したいくらいだ。」
「ほんと? 」
「ああ、ほんとだ。今日の主役なんだ。どんっと胸張ってろ。可愛いお姫様だ。」
 うっとりといった表情で、親猫は桃色猫の頬に軽いキスをする。それだけで、桃色猫の頬も薄紅色になって、キラキラと輝く表情になる。親猫に誉められただけで、桃色猫のテンションも上がる。
「中身が、庶民派貧乏性のおかんでなければ・・・・」
「ラクス、なんかほざいたか? 」
「いいえ、わたしのママは世界一だと誉めただけです。恥ずかしがって、なかなか、お顔を上げてくださいませんでしたの。」
「こんなに可愛いんだから、誰が見たって可愛いお姫様だ。カガリ、ラクス、ありがとな。」
「わたしのおかんは、見た目はいいんだ、見た目は。それに台詞も堂に入ってる。でも、おかんなんだよなあ。」
 ニコリと微笑まれたカガリも、ラクスと同様の感想だ。見た目はいいのだ。台詞だって、どんな女性でも落とせる空気を醸し出している。だのに、フェルトの両手を掴んで、ブラブラさせて笑っていると、そこで、その効果は霧散する。ただの親バカな顔になっているからだ。
「当たり前だ。うちの子が、こんなに綺麗に変身したら嬉しくて仕方がないだろ? 」
「じゃあ、私は、どうなんだ? オーヴの姫だぞ? 」
「わたしも、歌姫なのですが? 」
「おまえさんたちも、綺麗だよ? 見た目にはな。」
 ニールにしてみれば、普段、素の状態で逢っているから、どんなに着飾ってくれても、所詮、カガリもラクスも、娘のようなもので、綺麗になるもんだなあ、と、感心するぐらいのことになる。
「もうちょっと歯の浮くような台詞を言え。」
「ママ、わたしにも。」
 ふたりも、フェルトの手を取って、ブラブラと揺らしているニールの腕に両側から掴みかかる。
「傾城の美女とは言い難いが、輝くばかりのお姫様だよ? 」
「熱意がないけどな。」
「フェルトにおっしゃった台詞の二番煎じですわ。」
 と、文句は言ったが、どちらも嬉しそうに微笑んでいる。なんせ、ここにニールが居て、こんなことができるのは、治療が終わったからだ。よくぞ、ここまで生きていてくれた、と、思うと、カガリもラクスも、涙がこみ上げてくる。本当に危なかったのだ。だから、どんな台詞でも、ふたりには嬉しい。
「ママ、お姫様を全員、独占しちゃダメだよ。ラクス、どうぞ、エスコートは僕におまかせを? 」
 ラクスの横にかしずいて、キラが小首傾げてニッコリと手を差し出す。逆手のカガリの横には、悟空がニカニカ笑いつつ、こちらもかしずいて手を差し出す。
「カガリ、今夜のエスコートは俺だ。ママはフェルトのもん。」
 そう言われると、ラクスとカガリはニールの腕から手を離す。そして、向き直って、差し出された手に手を重ねる。
「もちろんでございます、キラ。どうぞ、お導きください。」
「そうだったな。悟空、今夜は頼む。」
 エスコート役が立ち上がると、腕を、そのまま組む。そして、今度はフェルトの番だ。ちゃんと、三蔵もフェルトの前にやってきた。そして、ニールと一緒に手を差し出す。
「寺のおとんとおかんが、おまえのエスコートだ。」
「楽しもうな? フェルト。」
 その手にフェルトも両手を差し出す。ちょっとはにかみつつ、エスコートのおとんとおかんと腕を組んで、両側を見上げると、どちらも微笑んで、フェルトを見ていた。
「つまづいたら、俺がフォローしてやるから、おまえは、おかんのほうのフォローをしろ。」
「うん。」
「え? 俺は普通に歩けますよ? フェルト、ゆっくりでいいからな。」
「うん。」
 さあ、準備ができた、と、一同が扉のほうに足を進めると、扉は外から両側に開いた。ネービーブルーの燕尾服に身を包んだシンとレイが恭しく会釈して、先を歩く。
「・・・・なんか緊張する。」
「大丈夫だ、フェルト。いつもの面子ばかりだからな。」
「フェルト、ねーさんが転けないように手を掴んでろよ? おまえも、すっごく可愛いぞ? 」
 フェルトの声に、シンとレイが、いつものように声をかけて、先導する。しばらく広い廊下を、そのまま進んで、大広間の扉に辿り着く。そこで、扉の前で、シンとレイは立ち止まり、扉を背にして、また会釈した。
作品名:こらぼでほすと ダンス3 作家名:篠義