【カイハク】NoA
見失うなというほうが無茶なくらいの速度だ。だが、ここでカイトを見失えば、自分もハクもあいつらの餌食となる。ラッドはハクの手を離さぬよう注意しながら、死にものぐるいでカイトの後を追った。
少し離れた建物に、カイトが飛び込むのが見える。後少しだとラッドが自分を奮い立たせたところで、月明かりの下、誰かの影が揺れた。
ハッとして目を向ければ、建物を回り込んでいくノアの後ろ姿を捉える。思わず足を止めたラッドに、ハクが驚いたように声を掛けた。
「マスター? 早く」
「先に行っててくれ。すぐ追いつくから」
「マスター!?」
ハクの制止を振り切り、ラッドはノアの姿を探す。
置いていく訳にはいかない。今度こそ。
「マスター! マスうぐっ!」
「叫ばないの。あいつら、耳がいいって言ったでしょ?」
背後からカイトに抱きしめられ、口を塞がれたまま、建物の陰に引きずり込まれた。
ハクはカイトを振り払うと、
「でも、マスターが!」
「オーケイ、落ち着いて。僕だって目が見える。君の主人が、突然駆け出したのは分かってるよ。今考えなきゃいけないことは、君の声を聞きつけて集まってくるだろうあいつらをどうやってかわすかと、彼が何処に行ったかだ」
カイトの言葉に、ハクは自分が引き起こした事態をやっと飲み込む。
「・・・・・・ごめんなさい」
「やっちゃったもんはしょうがない。それに、彼の探し物は、僕と同じかも」
カイトはマスクを外すと、苦笑混じりに言った。
「僕の推測が当たってたら、君は僕のマスターと同じで、不運にも巻き込まれたのかもね」