【カイハク】NoA
荒い息を吐きながら、ラッドは周囲を見回す。誰の姿も見えない。ノアも、異形の化け物も。
もしかしたら、あの化け物達は
ラッドは不吉な予想を振り払い、また駆け出した。
ノアを見つけなければ。今度こそ助けなければ。
「きゃああああああああああああ!!」
肉の崩れた腕が間近に迫り、ハクが悲鳴を上げた。
「走って!」
カイトに手を取られ、必死に走る。後ろを振り向く余裕などないが、化け物達が数を増やしながら追いかけてくるのは分かっていた。
「カイト! 右!」
「分かってる!」
もはや気配を殺すことなど無意味で、二人は形振り構わず声を掛け合い、廃墟を右往左往する。
ラッドの行方を探すどころか、まず自分達が逃げきれるかどうか。ハクはカイトの手を離さぬよう、きつく握りしめた。
「ハク! こっちに!」
カイトが振り向いた瞬間、ハクは衝撃とともに横に突き飛ばされる。
「きゃあ!」
瓦礫に倒れ込み、悲鳴を上げるハクの耳に、不吉な音が響いた。
ざしゅっ、ぐしゃっ、ぐじゅっ。
耳を塞ぎ目を閉じて、音を振り払う。ぐいっと体を持ち上げられ、耳元でカイトの声がした。
「行くよ。走って」
よろけながら、ハクは無我夢中で足を動かす。余計なことを考えている暇はなかった。今はとにかく、逃げ延びないと。