【カイハク】NoA
月明かりの下、ラッドは荒い息を吐きながら、ノアの姿を探す。
ハクのことも気懸かりだが、カイトに任せれば大丈夫だと、自分に言い聞かせた。最悪、自分が戻らなくても、ハクだけは外に連れ出してくれるだろう。
けれど、あの二人に、一緒にノアを捜してくれと頼むことは出来ない。
『諦めな。手遅れだよ』
駄目なんだ。諦めてしまっては、あの時の二の舞いになる。
研究所の待遇は申し分なかった。予算は潤沢で、最新の技術と一流の研究者達が集められ、刺激に満ちた議論が交わされる。研究者として、これ以上の環境は望めないだろう。
だから、都合の悪い事実から目を逸らしてしまった。
表向きの目的とは裏腹に、此処が非公式に軍事研究を行う場所であり、国際的に禁止されている人体改造を行っていることを。
動物実験すら非難が集まるのに、人間を、それも年端のいかない少年少女を犠牲にして研究が行われているなど、外部に漏れればその先は破滅だ。関わっていた人間全て、社会復帰は無理だろう。
だからこそ、高待遇なのだ。彼らを縛り付ける為に。
けれど、ラッドはそこを逃げ出した。決して口外しないと誓約書を交わし、体内に発信機を埋め込まれて。
あの時見かけた少年からの、無音の『タスケテ』に心が押しつぶされたから。
その後、研究所内部で危険なウィルスが漏れ、閉鎖されたと伝え聞いた時は、ほっとすると同時に、実験体にされた少年少女がどうなったのか、気がかりだった。
出来るなら、何処かで平穏に生きていて欲しい。そう神に願う日々に、ノアと知り合った。あの少年の面影を宿す、青年と。
今ここでノアを見捨てたら、あの時の繰り返しになる。
だから、助けなければならない。今度こそ。