【カイハク】NoA
延々続く鬼ごっこの恐怖と、引き起こしてしまった事態への自責の念が、ハクを徐々に追いつめていた。
「頑張って! 走って!」
遅れがちになるハクには、カイトの励ましすら遠くに感じられる。
自分がいなければ、カイトは身軽に動き回れるだろう。最初に言われた「足手まとい」の言葉が、重くのし掛かった。
「あっ!」
小石につまづいて、ハクは前のめりに倒れる。
「ハク、大丈夫?」
カイトに抱き起こされるが、ハクはぐったりと座り込んだ。
「・・・・・・先に、行ってください」
「バカなこと言わないの。ほら、立って」
「私のことはいいですから、マスターを。どうか、マスターだけは助けてください」
「・・・・・・・・・・・・」
ハクの体にカイトの腕が回され、引きずるように建物の陰に連れて行かれる。
「ハク」
ハクの頬にカイトの手が添えられ、上を向かされた。ガスマスクを外したカイトの赤い瞳が、じっとハクを見つめている。
「落ち着いて、僕の顔を見て。いいかい、僕が君を守る。君のマスターも、必ず見つける。だから、諦めないで。いい子だから、僕を信じて。ね?」
「・・・・・・・・・・・・」
「怖いよね、僕も怖い。だから、一緒に行こう? 離れないで。二人なら、心強いから」
ハクの目から涙が溢れ、頬を伝い落ちる。カイトの体にしがみついて、胸に顔をうずめた。
「・・・・・・怖い。怖いの、早く、此処から出たい」
「そうだね。こんなところ、早く出よう」
優しく抱き締められ、ハクは子供のように泣きじゃくる。これは全部夢で、朝になったら全て忘れてしまえればいいと願いながら。