【カイハク】NoA
ラッドが比較的崩壊の少ない建物に近づくと、誰かが中に入っていくのが見えた。
「ノア?」
小声で呼び掛けるが、相手からの反応はない。ラッドは銃を握り直し、建物の中へ駆け込んだ。
「ノア? 助けに来た。いたら返事してくれ」
囁き声で呼びかけるラッドのこめかみに、冷たい金属が押しつけられる。
「銃を捨てて。両手は頭の後ろに」
「あっ」
「今すぐ死にたい?」
穏やかな口調だが、その声は氷のように冷たかった。ラッドは慌てて銃を投げ捨てると、そろそろと両手を上げる。
「久しぶりだね・・・・・・僕を覚えてる?」
砂利を踏む音がして、月明かりを背にノアの姿が浮かび上がった。
「ノア? ノア、何で、君を、助けに」
「ネズミがね、紛れ込んだみたいだ」
ノアは素早くラッドを引き寄せると、背後から首に腕を回して、こめかみに拳銃を突きつけてくる。
同時に、マスクを外したカイトとハクが、建物の入り口に姿を現した。
「マス」
「あー、遅かったか」
カイトがハクの口を手で塞いで、肩を竦める。ノアは、ラッドに突きつけていた銃をカイトに向けて、
「こんばんは、ネズミさん。随分研究所内をうろちょろしてたようだね? まずは両手を頭の上にあげてもらおうか」
「初めまして、No.A。まさか研究所の外にいるとはね。どうりで見つからないはずだ」
そう言いながら、カイトは両手を上げ、ハクにも指示に従うよう促す。ハクが恐る恐る言うとおりにしたところで、ノアは建物の奥を示し、
「此処じゃゆっくり話せないから、奥に行こうか。積もる話もあるしね」