【カイハク】NoA
ずるずると引きずられながら、ラッドは先程のノアとカイトのやり取りを思い返していた。
No.A、そうだ、研究所の実験体はアルファベットが振られていて、
『あいつ? No.Aだよ。研究所のエースさ』
笑いながら言った同僚が、まるで異次元の生命体のように感じられた。
「ノア、NoA、そうか、やはり君は」
「しっ。静かに。邪魔が入ったら台無しだ」
突き当たりの部屋にラッドを引き込むと、ノアはカイトとハクへ向き直る。
「あいつら、この部屋には入ってこれないからさ。ゆっくりしていきなよ」
愉快そうに笑うノアに、ラッドは「目的は?」と聞いた。
「復讐か? 研究所と、その関係者に? だったら、あの二人は無関係だ。解放してやってくれ」
「そうだね。全く無関係なのに、あんたのせいで巻き込まれて。気の毒だね」
くすくすと笑うノア。その声を遮るように、カイトが口を開いた。
「あのさあ、その辺は諦めてるからいいんだけど、せめて経緯を説明してくれない? 此処が閉鎖されたウィルス漏れの事故って、あんたが原因?」
「ああ、そうだよ。随分あちこち覗いたようだね。丁度いいや、こっちも退屈だったんだ。あいつら、まともな会話が出来ないからさ」
ノアは上機嫌で、まるで歌うように、研究所の内情を暴露する。それは、古傷を抉るような痛みを伴って、ラッドを過去へと引きずり戻した。