【カイハク】NoA
走って走って走って、ようやくゲートの付近まで辿り着く。
見上げるほど巨大なそれは、ぎしぎしと軋みながら、わずかな隙間さえ埋めようとしていた。その付近を、崩れた体を引きずりながら、化け物達がうろついている。
此処まで来たのに・・・・・・!
絶望にめまいを感じるハクの耳元で、カイトが囁いた。
「此処からは、ハク一人で行けるね。絶対に振り向かないこと、いい?」
その言葉の意味を悟り、ハクは振り向く。声を上げようとして、カイトの指がハクの唇に触れた。
赤い瞳が、穏やかに微笑みかける。
「次は、日の当たる場所で」
ハクが引き留める間もなく、カイトは飛び出していった。
「こっちだ、化け物!」
その声が遠ざかって行き、崩れた人影が驚異的な早さで追いかけていく。
ハクは涙を振り払うと、ヒールの靴を脱ぎ捨て、全力でゲートへと走った。
じりじりと、少しずつ、だが確実に隙間を狭めていく門。ハクはありったけの力を振り絞ってゲートに取り付くと、無理矢理体をねじ込んだ。押しつぶそうとする圧力に屈せず、強引に向こう側へと上半身を通す。腹部を締め付ける金属から、力ずくで腰を抜くと、勢い良く地面に倒れ込んだ。
ガシャーーーーン・・・・・・!
ハッと顔を上げて振り向くと、足下ほんの数ミリ先で、ゲートが固く閉ざされている。
外に・・・・・・出たんだ・・・・・・。
ぼんやりと見上げた影は巨大で、とてもよじ登って越えられるものではなかった。
外に・・・・・・私だけ・・・・・・マスター・・・・・・カイト・・・・・・。
ぽろぽろと涙をこぼしながら、ハクは呟く。
「マスター・・・・・・カイト・・・・・・どうして・・・・・・」
どうして・・・・・・一緒に・・・・・・どうして・・・・・・。
「どうして・・・・・・カイト・・・・・・カイト・・・・・・」
地面に伏せ、ハクはただ泣き続けた。