【カイハク】NoA
夜も更け、徐々に人も減っていく。クライン夫妻に別れの挨拶をしたラッドは、ハクを連れて自分の車へとぶらぶら歩いていった。
車のキーをハクに渡し、少し横になろうと後部座席のドアを開けたところで、背後から「すみません」と声を掛けられる。
「はい?」
振り向いたラッドは、驚きのあまり息を呑んだ。クラインの別荘でぶつかった青年が、申し訳なさそうな顔で立っている。
「あの、僕、友達と一緒に来たんですけど、あいつ、僕のこと忘れて帰っちゃったみたいで。その、もし良かったら、一緒に乗せてもらえませんか? ラワンで降ろしてもらえれば、親戚がいるので。あ、僕が運転しますから! 今夜は飲んでないんで!」
後半を早口でまくし立てると、青年は戸惑うハクに手を差し出した。
「あ、えっと、マスター・・・・・・?」
ハクから伺うように視線を向けられ、ラッドは我に返る。
「ああ、ああ、そう。そうか。ラワンなら通り道だし、こういう時はお互い様だから」
「良かった! ありがとうございます! あ、僕はノアといいます。初めまして、ミスター・・・・・・」
「俺はラッド。彼女はハク」
「ミスター・ラッド。恩に着ます。奥様も、ありがとうございます」
ノアの言葉に、ラッドは笑って、
「奥様じゃないよ。ハクはアンドロイドだ。見るのは初めて?」
「えっ、そうなんですか!? うわー、分からなかったな。今は、こんなに精巧なんですね」
「パーティーにも、何体か連れて来られてたよ。パートナーがいないと、クライン夫人にお相手をあてがわれてしまうからね」
今度はノアが笑い、空気が緩んだところで、三人は車に乗り込んだ。
エンジンが始動し、車が滑らかに動き出す。