【カイハク】NoA
細い田舎道は、街灯もぽつりぽつりとしか点在しない。月明かりもない暗い道を、車は滑るように走っていった。
緩やかなカーブを過ぎ、単調な一本道に入った頃、ラッドは眠気を覚えて目をしばたたかせる。欠伸をかみ殺しながら、バックミラー越しにノアへと視線を向けた。
「ノア、悪いけれど、少し眠らせてもらうよ。君の運転が余りに静かなんで、目を開けていられなくなってきた」
「どうぞ、僕のことはお気になさらず。ラワンに着いたら声を掛けますから」
「悪いね」
そう言って、ハクに寄りかかると、ラッドは目を閉じる。すぐ眠気に引きずり込まれ、ノアのことも、彼によく似た少年のことも、意識の彼方へと消えていった。
ラッドの重みを感じながら、ハクはぼんやりと窓の外を眺める。暗闇に包まれた田園風景が、徐々に白く霞んできた。
「霧だ・・・・・・こんな時期に、珍しいな」
ノアが低い声で呟く。
あっと言う間に視界は濃い霧に包まれ、車はライトをつけてスピードを落とした。
「大丈夫ですか?」
「ああ、平気ですよ。こんな時間に対向車も来ないでしょう。ただ、帰りが大分遅くなるかもしれません」
「それは気にしないでください。帰りを待っている家族がいる訳でもありませんので。それより、貴方の方が」
「僕も大丈夫ですよ。僕の親戚は宵っぱりだし、もし寝てても叩き起こしますから」
ノアはそう言って笑うが、その声音には一抹の不安が潜んでいる。ハクも奇妙に落ち着かない気分で、窓の外を見つめた。
「標識さえ見落とさなければ・・・・・・大丈夫ですよ」
ノアの呟きが、やけに大きく響く。