【カイハク】NoA
「マスター、マスター」
ハクに揺り動かされ、ラッドはぼんやりと目を開けた。
「んっ・・・・・・何だ、もう着いたのか?」
「いえ、それが・・・・・・」
ハクの不安げな声を遮るように、
「僕、ちょっと見てきます」
ノアがそう言い残して、車を出る。
ラッドは頭を振って窓の外へと視線を向け、戸惑いの声を上げた。
「何だ、此処は。一体、何処に迷い込んだっていうんだ?」
外は濃い霧が漂い、時折、切れ目から崩れた建物の影が浮かび上がる。見覚えのない景色に、ラッドが眉間に皺を寄せていたら、人影のようなものが近づいてきた。
「あっ、すみません! 道に迷ってしまったみたいで」
ノアの声が響く。だが、それは途中で途切れ、「ヒッ」という短い悲鳴が漏れ聞こえた。
「ノア?」
「う・・・・・・うわあああああああ!! 来るな! 来るなあああああ!!」
叫び声をあげ、ノアはいきなり走り出してしまう。近づいてきた人影が揺らめき、素早く後を追いかけていった。
「ノア!?」
「駄目!」
ラッドは驚いて外に出ようとするが、ハクの鋭い制止に動きを止める。ハクは素早く身を乗り出すと、運転席側のドアをロックした。
建物の影からぞろぞろと沸いてきた者達が、車を取り囲み、中を覗き込んでくる。