【カイハク】NoA
「なっ・・・・・・!」
ラッドは驚きのあまり息を呑み、ハクが怯えたようにしがみついてきた。
窓ガラス越しに見える人影は、人でありながら人ではない。肉は崩れ、歯茎が剥き出しになっている。瞳孔の開いた瞳は虚ろで、まるでガラスをはめ込んだようだった。骨の覗いた手がべたりと窓に張り付き、赤黒い筋を作る。
醜悪な姿にラッドは顔を背け、ハクの体を抱きしめた。ノアのことも心配だったが、それ以上に、今自分達が置かれている状況が恐ろしかった。
外に出たら、襲われる・・・・・・!
ノアを追いかけていった時の、素早い動き。下手に飛び出せば、あっという間に捕らえられてしまうだろう。
目でドアロックを確認し、ラッドはハクを抱く腕に力を込めた。
神よ、どうか・・・・・・!
祈りの言葉は、ガチャガチャという不吉な音と車体の振動に遮られる。外にいる化け物が、ドアを開けようと奮闘しているのだ。
「マスター・・・・・・!」
ハクの囁き声に、ラッドはどう返していいか分からず、ただ身を寄せる。
「大丈夫、大丈夫だから」
自分でも滑稽だと分かっていても、ラッドは大丈夫と繰り返した。恐怖で鈍る思考を必死に手繰り寄せ、どうにかして活路を見いだそうとしたその時、
「ぐぎゃあああああああああああああ!!」
断末魔の悲鳴にも似た声に、ラッドとハクは飛び上がる。
車を囲んでいた化け物達が一斉に動き出し、皆同じ方向へと走っていった。
何が起こったのか把握できず、呆然とする二人を、今度は赤いガスマスクを着けた顔が覗き込んだ。