【カイハク】NoA
ハクはラッドの腕にしがみつきながら、そろそろと周囲に視線を向けた。
月明かりに目を凝らせば、崩れかけた建物の影が浮かび上がる。時折吹き出す得体の知れない煙が、靄のように周囲を漂っていた。
少し前を歩くカイトは、ある建物の前で立ち止まると振り返り、身振りで中に入るよう促す。
「マスター・・・・・・」
「大丈夫。今は彼を信じよう」
ラッドは励ますようにハクの手を叩いた。ハクは頷いて、主人と歩調を合わせる。
建物の入り口に近づいた時、ラッドがハッと息を呑んだ。
「マスター、どうされました?」
「え? あ、ああ、いや、何でもないよ」
「気持ちは分かるけど、出来れば喋らないでくれるかな? あいつら、耳もいいから」
カイトの言葉に、ハクとラッドは慌てて自分の口を押さえる。
促されるまま無言で階段を上り、曲がりくねった通路を進んで、見るからに頑丈そうな扉の前まで来た。
カイトが肩をつけて、体全体で扉を押す。鈍い音を立てながら僅かに開いた隙間に、するりと滑り込む。
ハクも後を追おうとして、ラッドの視線が扉に描かれている図印に釘付けになっているのに気がついた。
「マスター?」
小声で呼びかけると、ラッドは、はじかれたように体ごと振り向く。
「す、すまない。早く中へ」
ラッドに押されて、ハクはいぶかりながらも扉の中へ体をねじ込んだ。