【カイハク】NoA
「はあ、うっとうしい」
カイトはマスクを外して、ハク達に向き直る。赤い瞳が、無遠慮に二人を眺め回した。
「で? こんな所まで何しに来たの? 随分着飾ってるけど? あ、喋っていいよ。ここ、防音だから」
「パーティーからの帰りなんだ。友人の別荘から、車で。俺は途中で寝てしまって」
ラッドの言葉を、ハクが引き継ぐ。
「途中、霧が出て、標識を見落としてしまったみたいなんです。気がついたら此処に」
「ああ、霧、ね。オーケイ、把握した。ところで、運転は君が?」
「いえ、あの、私ではなく」
「そうだ! ノアが! 彼が化け物に追いかけられて!」
ラッドが早口でまくし立てるのを、カイトは手を上げて制する。
「落ち着いて。いきなり登場人物を増やさないでよ。その「彼」に、僕は会ってない。順序立てて話してくれる?」
「だが、彼の身が」
「諦めな。手遅れだよ」
冷酷に告げられ、ハクは痛ましさに目を伏せ、ラッドは言葉に詰まったようだ。
「彼ってことは男だよね? どんな奴? そいつが運転して、霧のせいで道に迷った。それで?」
ハクがノアの背格好を説明し、彼が外の様子を見に車を出て、悲鳴を上げて走り去ったことを話す。
カイトは首を傾げて、何事か考えるように目を閉じた。
「うーん。まあ、その彼のことは忘れよう。今は、君達をどうやって逃がすかだ」
「そんな、ノアは」
ラッドの抗議を、カイトは手を振って遮る。
「人のことより、自分の心配をしなよ。君もあいつらみたいになりたい?」
「・・・・・・え?」
カイトは窓に近寄ると、外を伺い、「ああ、いたいた」と言って、二人を手招きした。ハクとラッドは顔を見合わせてから、そろそろとカイトに近づく。
「ほら、見て。あいつら、元気にうろついてる。まあ、元気かどうかは分からないけど」
月明かりの中、崩れた人影が建物の周囲を探るように徘徊していた。ハクは驚いて窓から離れ、ラッドの背中に隠れる。