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シッポの行方

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 新聞記者の朝は早くない。
 なるべく惰眠をむさぼり、日が昇りきった頃にのそのそと起き上がり、そして二度寝する。それが伝統の幻想ブン屋だ。だって眠いだもん仕方ないでしょ。朝は寝床でぐーぐーぐー、それが正しい妖怪のあり方である。ってけーねが言ってた。
「……ん、むうう……」
 しかし、安眠もそう長くは続かない。窓から射す日の光が私を刺激する。こうなるとさすがの私でも寝続けるのは難しい。ぐあぁ、やめろぉ、私を起こすのはやめてくれぇ。ククク、口では嫌がってても身体は正直じゃないか。悔しい……でも、起きちゃう!
「ふあー、よく寝た」
 私は寝床からむくりと身を起こした。今日はなんだかずいぶん長く寝ていたような気がするなぁ。いま何時だろ?
 ちらりと壁に掛けられた時計を見ると、時刻はそろそろ正午になろうという頃合いだった。
「ワーオ」
 自分で自分にびっくりだよ。いくらなんでも寝過ぎじゃないか? ていうか、なんで今日は椛が来てないんだ?
 ふと昨晩の出来事を思い出した。
 はたてのあの目、本気だったな。
 ……ふん、いいさ。こっちだって口うるさいやつがいなくなってくれてせいせいする。おかげで今日はゆっくり眠れたじゃないか。いやぁ、こんな生活がずっと続くかと思うと、胸が熱くなるな! なんなら今日はもう六時間くらい寝てしまうか。うん、それもいいかもしれないな。
 グゥー。
 盛大に腹の虫が鳴り響いた。
 ……もう一眠りする前に、朝ご飯どうしよう? 朝っていうかもう昼だけど。自分でなんか作るか……でもそれは面倒だな。じゃあ外食? うーん、そんな気分でもないなぁ。
「あ、そうだ」
 仕事机の引き出しに、にとりからもらったあれがあるはずだ。
 私は布団から這い出て、仕事机の引き出しを上から順に調べ始めた。
 えーと、どこに入れたっけなぁ……これはこの前の写真で、こっちはその前のか。あ、この写真、ここにあったのか! うーん、もうちょっと机の中身も整理しないとなぁ……って違う。今はそうじゃない。私の捜し物は……お、あったあった。河童の技術の粋を尽くした未来型食品、その名も一本満足棒!
 一本満足棒は、その名のとおり見た目は棒状で、大きさは手のひらよりも少し大きい程度だ。味はチョコレート、チーズ、バナナなど、いくら食べても飽きないように色々な種類が用意されている。忙しい河童が仕事中にも片手で食べられるとあって、妖怪の山では広く愛されている一品だ。ちなみに私がもらったのは新作のキュウリ味。
 ただ、最近になって一本満足棒には副作用があることが発覚したらしい。なんでも食べ過ぎると夕方五時に踊り出してしまうとか。まあ、そんなピンポイントでおバカな副作用なんてあるわけないだろうし、ガセネタだろう。
 んじゃ、いただきまーす。
 少女咀嚼中。
「……きゅう……り……?」
 なんだろう、これは。確かにキュウリの味はするけど、妙に甘ったるい。砂糖を使いすぎなんじゃないか? 甘すぎるせいで、キュウリと言われなければこの味がキュウリだと気づかないだろ、これ。
 でもこの味、どこかで味わったような気が……あ。
「あれだぁ……」
 何年か前にキュウリとハチミツを一緒に食べるとメロンの味になるという噂を聞いて実際にやってみたことがある。そのときの私は、まさかそんなことがあるわけないとは思いつつも、もしかしたらともしかするかもしれないとドキドキしながらキュウリにハチミツをたっぷりとかけて豪快にかぶりついた。
 結果はというと、メロンの味などまったくせず、ただキュウリとハチミツが口の中で不協和音を奏でるだけだった。
 一本満足棒キュウリ味、あのときの味にそっくりだ。
 残念ながらうまいとは言えない。
 キュウリ好きな河童たちにはウケるかもしれないけど、おそらく私は二度と食べないだろう。
 しかし他に食べる物がないので、私は心を無にして一本満足棒キュウリ味を胃に押し込んだ。
 あー、食った。食いきった。味はともかく、お腹はふくれたな。
 強烈な味のせいで眠気も飛んでしまったし、今日はこのままここで写真の整理でもしよう。
作品名:シッポの行方 作家名:ヘコヘコ