二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

月を測る

INDEX|2ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 



対英戦が一度終わったあたりだったか対仏のそれか、あるいはポーランドを蹂躙
するより前であったか。初めてその目を向けられた日をドイツはもう覚えていな
かった。ただ、全ての血管に墨が混ぜられたような重く冷たい心地がした。
あの兄が、美しく賢こく勤勉と忠実と全ての美徳を備えた神の愛し子!と常にド
イツを愛する兄が、いつだって自分をただの騎士たらしめるのはこの世で唯一お
前だけだとドイツの前に膝をついてマントの裾に口付けた兄が、蔑みと幾許かの
憎悪かあるいは嫌悪すら浮かべているのだ。他の誰でもない、ドイツに向けて!
それは今まで生きた百余年のうちで感じたことのない、かつて読み漁った南の神
話の中でさえ見たことのない程の愉悦だった。
絶望と恐怖を感じる。死神の鎌よりテミスの天秤と裁きのガベルの方がずっとお
そろしいのだと思い知らされる。
しかしそれでも、ドイツに限りそれらは絶対ではなかった。何故ならプロイセン
はドイツを見捨てられない。二人の間に別離はない。これこそが恒久的な絶対だ
った。片割れとの別離がないのなら、他に魂の底から畏れるべきものなど何もな
いのだ。

「兄さん……」
人気の失せた廊下でドイツはぺろりと口唇を舐めた。最終的な崩壊のない一過性
の嫌悪がこれほど興奮を煽るものだと思わなかった。マリアの愛を持つ人からの
嫌悪の眼差しはドイツの劣情を予想以上に煽るものだった。
神に歯向かい天上の高みに手を掛けるのは知恵持つものならば誰しも秘めている
欲望だ。古くはニムロデの試みから現代なら憐れな羊や有翼の猫まで。
国がなくても人はあるが、人なくして国はたたない。構成分子たる人の本質的な
性にどうして国が無頓着でいられようか。
プロイセンの去った廊下で一人、自己弁護を繰り返している。
これほど滑稽なこともないと、ドイツは自嘲を隠しもせずに踵を返した。


作品名:月を測る 作家名:_楠_@APH