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たままはなま
たままはなま
novelistID. 47362
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指輪のせい

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ぬるくなったコーヒーを飲み干し、ベンチを立とうとした時、
目と鼻の先で押し車に買い物を積み上げて押していた老齢の男性が、
小さな段差に乗り上げた拍子に押し車ごと倒れそうになった。
俺は咄嗟に飛び出してその身体を支えたが、
押し車に積まれていた荷物は辺りに散らばってしまった。
「大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとうございます。お蔭で怪我をせずに済みました。
すっかり足が悪くなってしまって、こんな小さな段差でも躓いてしまうんですよ。」
男性は申し訳なさそうに言って体を起こし、荷物を拾おうとしたので、
「拾いますから、そこのベンチで座っていて下さい。」
笑ってそう告げて男性を座らせ、まとめ買いをしてきたらしい食材や日用品を、
元通りに押し車に乗せていく。
「すみませんね。こんな足になってから買い物にもそうそう出られなくて、
週に一回、まとめて買って来るんです。
ただ、その分荷物が重くて運ぶのに困るんですよね。」
バニーだったら、こんな風になったら、
何でも通信販売でお取り寄せしてしまうんだろうと可笑しく思う。
実際、今でも現物を見なくて構わない物は大概お取り寄せするセレブだ。
残念ながら、ブロンズの辺りに住む老齢の人間には、そんな真似をする余裕はない。
「大変っすね。お宅はこのお近くなんですか?」
「ええ、そこの角を1本入った所です。」
乗りかかった船だ、俺は荷物を運ぶのを手伝う事にする。
「そんじゃ、俺、荷物を運びますよ。あ、押し車が無いと歩き難いっすよね?
ご主人は背中に乗っかって下さい。」
そう言って背中を向ける。
「いえいえ、そんな、申し訳ないですよ!」
少々ポッチャリした人だけれど、上背はかなり低いし、そう重くはなさそうだ。
目の前で両手を振って遠慮されたが、このくらいどうという事も無い。
「こう見えて、俺、体を使う仕事してるんで全然平気っすから。
さあ、遠慮せずにどうぞ。」

まだ遠慮する男性を半ば強引に背負って、押し車を片手で押しながら家まで送り届けた。
「どうもありがとうございました。本当に助かりました。
お礼という程ではありませんが、よろしかったら是非その指輪を磨かせて頂けませんか?
私は、宝石の修理の仕事をしているんです。」
流石に仕事柄なのだろう、俺の左手の指輪に気が付いたようだ。
「ああ、それじゃ、お願いしようかな。」
家の奥へ通されると、そこには宝石を修理する為のものらしい工具や機械が、
所狭しと並べられており、預かりものを入れるらしい頑丈そうな金庫があった。
古いがすわり心地の良いソファーに腰を下ろすと、
左手からそっと外し、大事なものを受け取ろうと差し出された重ねた両手の上に乗せる。
「随分大事に扱っていらっしゃるのですね。とても状態がいい。」
人好きのする笑顔で言われた。
「へへ、無精なんですけど、それだけは大切なんでなるべく綺麗にしてるんすよ。」
照れくさくて、頭をガシガシと掻いて誤魔化す。
汚れ落としと思われる薬液に漬け、丁寧に汚れをおとしてくれるのを見ていると、
ふとこちらを向いた彼が、思わぬ事を俺に告げた。
「あの、こんな事を言うと変な奴だと思われるかも知れませんが、
この指輪、なんだか怒っているようですよ。」
「・・へ?」
きっとかなり間抜けな顔をしていただろう。
「えっと・・、ご主人はNEXTって事ですか?」
少しの逡巡の後、彼は言った。
「大事にしている物に魂が宿るというジャパンの言い伝えがありますが、
私の場合、それを感じ取る事が出来るとでも言えばいいでしょうか。
まあ、その伝えたい事を伝えられるようにする事が出来るNEXTではあるのですが。」
何時も俺の車の修理を頼むかなり高齢の修理工も車と会話すると言っていたが、
彼はNEXTではないし、長年の経験値のようなものだと思って聞いていた。
そういう人が他にも存在するとは。
世の中、色々な人が居るものである。
「それでですね、この指輪は貴方にとても伝えたい事がある様なんですが、
貴方に伝わらなくて非常に怒っているというか・・・。
このままだと、いつか壊れてしまうかも知れない感じなのです。
お嫌でなければ指輪に能力を掛けても構いませんか?」
壊れられては困る、この世にたった一つだけの物なのだ。
「それって、指輪に何か支障が出たりしませんよね?」
「大丈夫です。保証しますよ!」
サムズアップで答える彼に、意を決して了承した。
「私の能力は“Whisper of jewel”と云って、宝石が伝えたいと思っている事を、
伝えたい人に伝えられるようにする能力で、きちんと伝わった瞬間に能力は切れます。
能力を掛けて1時間後に宝石が話し始めますから、話を聞いてやって下さいね。」
好々爺の笑顔でその人は俺の指輪に能力を掛けた。

あれからもうすぐ1時間が経つ。
ソワソワした気持ちで明日の朝食の下ごしらえをしてみたり、
風呂場の片づけをしたりと家の中を落ち着きなくうろうろとした挙句、
時間が近づき、今か今かと何時ものソファーに正座して待っている俺だ。
カウントダウンが始まる。
5、4、3、2、1、キタ!
「虎徹君!!貴方って人は本当に、相変わらず何も解ってないのね!この鈍感!」
おお?!指輪から友恵のお怒りの声が聞こえる!
が、これは“囁き”じゃなくて“叫び”だ・・・。
声は直接頭に響いてくる感じで誰かの声という訳ではない。
だがしかし、このしゃべり方は絶対に友恵だった。
「友恵、い、いきなり何怒ってるんだよ・・。」
ソファーの前のテーブルに直に置くのは憚られる気がして、
ハンカチを綺麗に畳んだ上に置いた指輪に向かって俺は情けない声をだした。
「いきなりじゃないわ!ずっと怒ってたんだからね!
気付いてるくせに自分からは動かないでいる所とか、ホント腹が立つったら!
放って置かれる側の気持ちだってちゃんと分かってて見ない振りして!」
懐かしいな、こんな風に友恵に叱られるの。
大人しそうな見た目に反して、彼女は熱血系だったのだ。
馬鹿な事をすると何時でも俺は叱られた。
「ちょっと、聞いてるの?虎徹君!」
この度は何に対するお怒りなのでしょうか、友恵さん・・・。
「き、聞いてます!」
正座しておいて良かったと思う今の俺。
「虎徹君のバカ!チャンスの女神には前髪しかないって教えてあげたの忘れてるでしょ!
結婚の挨拶に私の家に来るのが決まってから、
貴方ったら浮足立っちゃって私にプロポーズするの忘れて、
私の方から“まだプロポーズしてもらってないんだけど”って言ったのよ!
家に来た時もテンパって、なかなか父に挨拶出来ないでいるうちに父が酔っちゃって、
寝室に引き上げようとするのを呼び止めて、
“私、虎徹君に貰ってもらってもいいの?”って私が聞いたのよ?
父は無言で嬉しそうに笑いながら片手を上げて了解してくれたけどね!」
はい、友恵さんの仰る通りでした。
プロポーズの事も、お義父さんへのご挨拶の時も、
見事なまでにタイミングを逃して友恵さんにフォローして頂いた俺です。
それにしても、宝石修理のご主人の能力名、絶対にオカシイ。
この指輪、囁くどころかずっと怒鳴ってるんですけど。
しかも、相当頭にきてる時の怒声なんですけど。
作品名:指輪のせい 作家名:たままはなま