スターサインプリキュア☆
「…。」
私は図書室を出て廊下を歩いていた。
あれは…どういう事だ?姿は多少違っていても誰であるかは分かる…。
しかし、私にはそれに関する記憶が全く残っていない。
スター・バーストに長く滞在している私ですら知らない事があるとでも?
「非常に不可解だな…。」
「あたしも不可解な事があるの。」
「お嬢様…!?」
振り返るとお嬢様がそこに立っていた。
あたしは今、とんでもない事を確かめようとしているのかもしれない。
これを…この飴をフィラメントに舐めさせたらどうなるのか。
あたしとバルジは人間界の物を食べても何も体に異常はなかった。
でもずっと前にフィラメントが…ほんの少し、人間界の食べ物の欠片を口にしてしまっただけで数日間うなされていた。
そう考えるとあたし達は明らかにおかしい。
でもこれをフィラメントに試してしまったら自分が何者なのか分からなくなってしまう。
けど、あたしははっきりしない事は嫌い。
もし、これでお父様の怒りを買って消されたら…それまで。
「あたしね、これを人間界で拾ったの。」
あたしは飴を握った右手を差し出し、そっと手を開く。
「…!!それは、人間界のものではないのですか!?何なのです、一体…。」
「食べ物みたいね。」
あたしはそう言って包み紙を剥がす。
「お、お嬢様、今すぐ処分するのです、さあ早く!」
フィラメントの表情は一変する。
「ちょっと食べてみようと思って。」
「な…」
フィラメントは私から飴を奪おうとする。
「…っと。」
あたしは体を翻してそれを阻止した。
「お嬢様!!!忘れたのですか!?」
「覚えてるわよ。でも…あたしはあなたとは違うかもしれないじゃない。それに…あたしはもうすぐ消される。だからどうせ消えるならこの人間界の物を口にして、苦しんで、人間界を恨みながら消えたいの。」
「もうすぐ消される…とは?」
「あたしは今、お父様のお力を借りた…このグレートダークマターの力を使っているの。
チャンスは3回…そして残りはあと1回。」
「…。」
「これを使ってもプリキュアに勝てなければ、あたしはお父様の言う事を聞くと言った。」
「しかし…いくらブラック様でもお嬢様を消す等ということは…」
「肉体は消さないでしょうね。」
「それは一体…?」
「今のあたしの意識と言うか…この人格は消される可能性がある。そうなったらもうお父様に忠誠を尽くし、常に何かに恨みを持ち、暴れ続けるだけ…。」
確信は何もない。けど、あたしがまだここに来て日が浅い頃にお父様が操るがままの意識を持たない何かがよく敷地内をうろうろとしていた事があった。
あれは何かを聞いたことがある。お父様はあたしには関係が無い、悪い事をしたから罰を受けているのだと言っていた。
「そ…それは…でも、だからと言ってそれを口にさせるわけには…」
「じゃああなたが。」
「…!?」
「あなたが毒味してくれる?」
「まぁあなたとあたしが違うとしても、根本的には一緒よね。だったら少し…口にしてみてよ?
もちろんダメならすぐに吐き捨てても構わない。人間界の物がどれほど有害で…恐ろしいものかもう一度この目で確かめる事が出来るのなら。」
「……お嬢様の為です。」
そう言ってフィラメントは少し震える手で私から飴を受けとり、口へ入れる。
「…っ!!!」
入れた瞬間フィラメントはカッと目を開き、その目は血走っている。
…これはやっぱり嘘なんかじゃない…。
「ガハッ…ゴホッゴホッ…ッ!!」
フィラメントは体を震わせ飴を吐き出す。
「はぁっ…はぁっ…これは…一体…何なのですか…口によく分からない刺激が…ガハッ。」
「…ごめんねフィラメント。あたしが無茶言ったから…ねぇ、そんなに苦しいの?」
やはり反応は前と変わらない…いや前よりもひどい気がする。
「味…?何をおっしゃってるのか分かりませんが…ガハッ…すごく口の中が気持ち悪…くて…もし全て食べたら確実に…死んでしまいます…。」
そう言ってフィラメントは体を震わせながら血を吐いている。
「これで…分かりましたか…?お嬢様…私は…これくらいなら少し横になれば…大丈夫…です。」
「部屋まで送るわ。十分分かった…人間界の物がどれだけ有毒かという事。
もう一生こんなお願いはしないわ。」
そう言ってあたしは力の抜けたフィラメントをおぶり、フィラメントの部屋へと向かう。
ええ…あなたにはもうこんなお願いしない。
分かったから…あなたとあたしが明らかに違うという事を…。
作品名:スターサインプリキュア☆ 作家名:☆Milky☆