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彗クロ 4

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 寂寥とした語尾には、淡い痛みと後悔が滲んでいる。
 ……籠の鳥は日常に屈託し自由な空に憧れながら、自ら羽ばたく努力もせずに無為の日々を貪り続けた。それを鳥の怠惰と断じたかつてのルークの認識は、半面正しく、半面、狭い。
 鳥は雛だった。飼い主に従順であることしか知らない、それ以外の方法を知らず、それ以外の者となることを許されてはいなかった……
「……というか、『あいつ』のことなら、今となっちゃ俺よりお前のほうが――」
「あのガキは今、どこにいる」
 悪意なき糾弾にも等しい言葉を遮り、ルークは問いを重ねた。ガイはあからさまに顔をしかめてルークを振り返った。
「おまえな……その話はもう終わっ――」
「どこにいる。国内か、国外か」
 いっそ平坦に、とりつく島もなく、ルークは畳みかけた。
 ガイは極度の疲労感を隠さず、盛大なため息とともにがっくりと首を倒した。……いまだに失望される余地がある程度には信頼も残っていたのかと、ルークは他人事のように感心してしまう。
 諦観に満ち満ちた投げやりな口調で、ガイは言う。
「今頃は船の上だよ。行き先は言えない」
「……そうか」
 ――では、今このとき、このバチカルで、あの生意気なレプリカが被験者(ルーク)の目前に現れる道理など、絶無だということになる――……
「ったくお前、そんなんじゃますますナタリアに……アッシュ? おい、どうした、なんか顔色悪くないか?」
「……いや。……帰る」
「えぇ? あ、ああ……」
 のろのろと踵を返し、ルークの足は昇降機を目指す。肉体がどうしようもなく重い。脳が、髄が、筋が、神経が、細胞が――ルーク・フォン・ファブレを緊密に織り上げ維持するありとあらゆる要素が、どろどろと粥のように融け出していくようだった。
 赤毛の獣の姿が脳裏にフラッシュバックする。幼さに欠ける冷めた表情、大人を見透かす眼差し、貴族の子弟を思わせる衣装……
 ――決して追いつくことができない獣。
 ――岐路も物陰もない一本道で忽然と姿を消したあの子供は誰だ?
 ――バチカルの隅々まで土地勘を持っているのは誰だ?
 ――閉塞を嫌って自由に憧れていたのは誰だ?
 ――思い高じて屋敷を抜け出したことがあるのは誰だ?
 ――「いつかこの国を変えるため」そんな口当たりの良い言葉をうそぶきながら初めて見る外の世界に浮き立つ気持ちを抑えきれずに好奇心に任せて街中を、それこそ複雑な中層階の道まで完璧に記憶してしまうほどに探索に熱中した経験があるのは

 ――籠を抜け出した鳥は、誰だった?

「あれは、俺か……っ」
 恐怖の化身。あるいは、欲望の権化。現実に飽いた神経が見せた、途方もなく都合の良い白日夢。決して手が届かぬことを知るがゆえに、己の鏡像で象るしかなかった、ひどくみじめで、あまりにあやうい……妄想。
 屈辱が全身を蝕む。ルークは痛いほどに奥歯を食いしばった。まぎれもなく、鉄の味がした。
 網膜に焼き付いた赤の幻影は消えない……

***

「なんなんだかなぁ……」
 自分自身を呪い殺そうとでもしているような陰気な背中を見送りながら、ガイはいまひとつ釈然とせずにぼやいた。
 無意識に握りしめていた紙片を開き、端的に綴られた内容を確かめる。照らし合わせて自身の言動には落ち度がないことを再確認し、それがゆえにますます状況の要領を得ない。
 首をひねっているうちに、並んで歩くにはあまりに沈痛な背中も適度に遠のいた。ガイはそれ以上悶々と考え込むことはせずに、紙片を懐にしまいこんだ。足下に広がる惨状にちらりと肩をすくめてから、アッシュの後に続いて帰途についた。
 無人となった外周回廊に残されたのは、無数の紙鳥の残骸。乱雑にはたき落とされ、気づかれず踏みつぶされ、用を終えたきり拾う者もない。譜力の尽きた白い紙片は、冷たい風に吹き曝されるまま、やがてバチカルの夜に四散した。

作品名:彗クロ 4 作家名:朝脱走犯